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長期戦のコロナ対策、情報機関の必要性指摘した毎日の真意はどこに?

◆モサドの活動を評価

 新型コロナ禍をめぐる新聞記事で気になっていながら取り上げる機会がなかったのを今回、紹介したい。

 それは毎日6月2日付の大治朋子・専門記者の署名コラム「火論」。「長期戦で独走 官邸の愚」と題し、安倍政権の一連のコロナ対策を「『お友達サークル』ですべてを決めないと安心できない独尊体質のように映る」と批判していた。

 大治氏は「早く行くなら一人で走れ。遠くに行くなら共に走れ」とのアフリカのことわざを挙げ、イスラエル政府の対応を「専門家の創意工夫、英知を結集する場を設け、その後方支援を徹底したのが印象的だ」と評価し、その例として対外諜報(ちょうほう)機関「モサド」の活動を取り上げる。

 「(モサドは)首相の命により、軍や保健省と共に3月末、基幹病院に合同作戦室を設けた。医療物資の入手が緊急課題と認識したモサドは『日ごろの海外人脈を生かせば、他国から医療物資を調達できるかも』と発案。外交関係を持たないアラブ諸国にも情報員が依頼に走り、一部協力を得た」

 その結果、わずか数週間で医療用ゴーグル250万個、人工呼吸器1万台などを世界中からかき集めた。大治氏は「モサドは検査キット生産技術も入手。国内企業が長期戦に向け、生産体制を整えつつある」と絶賛し、返す刀で「日本では教育や医療の専門家が現場で懸命に創意工夫を凝らすが、政府の支援が弱く、むしろその独走に振り回され疲弊している」と切り捨てた。

◆進まぬ諜報機関設置

 それにしてもモサドを持ち出すとは“勇気”がある。モサドは首相府直属の諜報特務庁のことで、活動の根拠となる法律さえ作られていない「世界でピカ一の情報機関」(菊池謙治著『これが世界の謀略機関だ』日本文芸社)。非合法工作部などがあり、特殊作戦や暗殺も実行するとされるが、その全貌は杳(よう)として知れない。今回の新型コロナ対策でも“実力”を発揮していることが大治氏の紹介で分かった。

 この記事を安倍首相は「無い物ねだり」と受け止めたか、それとも「わが意を得たり」だったか、どうだろう。よく言われるように国の命運は正確な情報とその分析、そして迅速かつ的確な意思決定によって左右される。このことを安倍首相は熟知している。2013年12月に「国家安全保障会議」(日本版NSC)を創設し、翌1月に官邸に「国家安全保障局」を設けたのはそのためだ。

 当時、菅官房長官は海外で外国の高官などに接触し情報を収集する「ヒューマン・インテリジェンス(ヒューミント)」すなわち諜報員の育成や諜報組織の設置を将来的な課題として検討したい意向を示していた。だが、今なお実現していない。

 今年4月、同局に「経済班」を設置することになったが、このことは取りも直さず従来の安全保障戦略に経済的側面が欠落していたことを示す。今回のコロナ禍は感染症対策の脆弱(ぜいじゃく)性も浮き彫りにした。確かにモサドのような本格的情報機関があれば、対応は変わっていただろう。

◆共に走る相手が不在

 むろんモサドは日本に存在しない。緊急事態にどう対応するか、憲法に記述がなく、法律すらなかった。安倍首相は法的根拠がない中で2月にイベント自粛や学校の春休み前倒しを「要請」するほかなかった。海外ではいち早く「緊急事態宣言」を発令したが、わが国で緊急事態を宣言できる法律(改正新型インフルエンザ対策特措法)が制定されたのは3月12日のことだ(施行、同14日)。「長期戦で独走 官邸の愚」と言われても、共に走る相手がいなかったのが実情だ。

 コロナ対策はいよいよ長期戦だ。共に走るにはモサドのような情報機関が必要だ。大治氏がそのことを見越してモサドを取り上げたなら、なかなかの見識である。逆に何でもありの安倍批判のネタに使ったなら、独尊体質の「新聞の愚」である。どっちだろう。

(増 記代司)

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