«
»

いまだ毛沢東の策に嵌められ中国のスパイ活動に鈍感な日本のメディア

◆「千人計画」詳報せず

 中国春秋時代の兵法家、孫子は「智将は努めて敵に食む」と説いた。毛沢東はこれを応用してこう言った。

 「われわれの基本方針は帝国主義と国内の敵の軍需工業に依存することである」(『中国革命戦争の戦略問題』)

 1920年代に武装蜂起に失敗した毛沢東は、井岡山(せいこうざん)(江西省)に籠(こも)って「勝つ兵法」を研究し、独自の革命戦略を編み出した。その中に敵から武器を奪い取る策がある。それは今日、先進自由諸国の技術を奪い取り「軍事強国」にのし上がる「千人計画」に継承されている。

 「千人計画」とは、西側諸国の優秀な科学技術者を厚遇で中国に招き入れ、研究成果や技術情報を獲得する一種の知的財産・技術窃盗だ。中国共産党中央組織部が指揮する、手を変えたスパイ活動だ。

 本紙は1月30日付1面で、米司法省がハーバード大学の化学部長、チャールズ・リーバー教授を「千人計画」への参加をめぐり米政府に虚偽説明の容疑で起訴したと報じた。米国の一流学者でノーベル化学賞候補とも目される人物が中国共産党に誑(たぶら)かされていたというのだから、1面報道に値しよう。

 ところが、他紙の扱いは小さい。朝日に至っては紙面にない。「千人計画」もほとんど報じない。日本のメディアがスパイ活動にいかに鈍感かが知れる。日本も標的にされているのに、である。警察庁は平成21年版「治安の回顧と展望」で米独での中国のスパイ活動を紹介し、先端技術スパイ活動が日本でも巧妙に行われていると警告を発した。これも産経を除き関心なしの体だった。

◆貴重な大澤氏の指摘

 では、この“事件”はどうか。今年1月、東京大学の大学院情報学環・学際情報学府の大澤昇平特任准教授が「差別的発言」を理由に懲戒解雇された。氏はAI(人口知能)開発で知られる人物で、昨年11月にツイッターに「(自身の経営する会社では)中国人を採用しない」などと投稿した。東大ではなく大澤氏の会社の話なのだが、東大側が敏感に反応した。

 朝日によると、大澤氏は11月の投稿のほか、12月には「東大は左翼の肩を持つつもりです。共産主義の反日大学にすべきでない」「中国独裁共産党は東洋文化研究所などに入り込み、東大を支配しています」「東大は中国のスパイに侵略されつつあると言っても過言ではない」などと投稿した(ネット版1月15日)。

 これを東大は「名誉」を傷つけられたとするのだが、大澤氏の指摘は興味深い。前述のリーバー教授についてレリング米連邦検事は記者会見で「これは事故や偶然ではない」とし「中国が自国の利益のために米国のノウハウと技術を吸い上げるために現在進めている取り組みのほんの一例」と述べている(本紙)。それだけに大澤氏の投稿を妄言とあっさり切り捨ててよいものなのか、新聞が追わないのは解せない。

◆スパイと書かぬ朝日

 そんな折、朝日は1月20日付1面トップで「三菱電機にサイバー攻撃 防衛・電力・鉄道、情報流出か 中国系組織、関与の可能性」と報じた。まさに中国によるスパイ活動だ。だが、記事にも26日付社説「情報共有で対策を急げ」にもスパイ活動のスの字もなかった。同じ26日付で読売は1面トップで「露外交官スパイ活動か」と、ソフトバンク元社員の情報漏洩(ろうえい)をスパイ活動と報じたが、これを朝日は第2社会面で小さく扱っている。

 孫子は間諜(スパイ)を「郷間」(敵国の住民をスパイにする)「内間」(敵国の軍人・役人をスパイにする)「反間」(二重スパイ)「死間」(敵国に故意に捕まり偽情報を流す)「生間」(敵国に侵入し生きて情報を持ち帰る)の五つを挙げている。サイバー攻撃はさしずめ「生間」か。ならば「郷間」「内間」はどうか。

 新聞報道を見る限り、いまだ日本は毛沢東の策に嵌(は)められている。

(増 記代司)

4

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。