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ルノー・FCA統合破談の波紋

 欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と仏自動車メーカー、ルノーの経営統合交渉は、わずか10日間でまさかの破談に終わった。同時に短い協議の中でルノーおよび、とルノーと20年の連合を組む日産自動車が直面する環境変化が露わになり、ルノーの将来に悲観的論調が見られる。
(パリ・安倍雅信)

日産賛同を理由に結論先送り
批判にさらされるスナール会長

 FCAがルノーに経営統合提案を行ったのは5月27日、そのFCAが仏政府の度重なる干渉を嫌って提案撤回したのは現地時間で6月6日未明だった。ルノーがルメール仏経済相から結論を先送りする指示を受けたことを伝えた直後だった。

スナール会長(左)と西川広人社長

フランス自動車大手ルノーのスナール会長(左)と日産自動車の西川広人社長=3月12日、横浜市の日産本社(AFP時事)

 交渉の前面に立っていたエルカンFCA会長は5日深夜、撤回に際し「政治的環境が整っていないことが判明した」と語った。一方、FCAへの結論を保留させたルメール経済相は「日本のパートナーを排除しないことが条件だ。日産が統合に賛同しなければならない」と述べ、エルカン氏は「交渉追求は不合理になりつつあった」ことを認めた。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「FCAのルノー統合案、船頭多すぎて転覆」というコラムを掲載。コラムの出だしで「フランスでは『船長が2人いると船は転覆する』と言われる。船長が3人も4人もいればどうなるのだろうか?」と書いた。

 ルノー側の船長は、スナール同社会長、仏政府のルメール経財相、さらに大統領の干渉、その上、ルノーの背後には日産の西川広人社長がいた。米国、イタリア、フランス、日本を巻き込んだ「非常に複雑な交渉」(仏経済紙レゼコー)だったことは確かだ。

 わずか10日間の夢で終わったFCAが提案した総額350億ドル規模の統合が実現すれば、世界第3位の自動車メーカーが誕生することになり、日産、三菱自が加われば、4社の世界の総販売台数は年間1500万台を超え、世界首位の連合体となるはずだった。

 レゼコー紙は「スナール氏の正しい立ち位置が不明だ」と指摘した。同紙は、スナール氏がルノーの筆頭株主の仏政府だけでなく、ルノー元役員や自動車業界関係者から噴出したネガティブな意見や懸念にさらされていたことを関係者の話から明らかにした。同紙は「今回の失敗でルノーは今後、危機に瀕(ひん)するだろう」と書いた。

 フランス政府は、FCAとルノーが50%ずつ出資する統合持ち株会社に取締役ポストや首脳人事、仏国内の雇用維持の確約を繰り返し要求した。FCAは何とか統合を実現させようと譲歩案を示したが、ルメール氏が日産との協議の時間を要求し、破談は決定的となった。

 一方、今回の交渉期間で、いわば傍観の立場を取った日産の事情は複雑だった。ルノーは日産に43・4%を出資し、議決権を持つ一方、ルノーに15%の株を持つ日産には議決権がない。議決権がないのは40%以上の出資を受けている会社は議決権を持てないという仏会社法の規定によるものだ。

 一方、ルノーに15%出資する仏政府は、長期に株を所有する株主の議決権を2倍にする国内法「フロランジュ法」を2014年に成立させ、ルノーへの議決権を増しており、日産にも影響を与えている。

 日産は15年にルノーからの過剰な干渉から守るために、不当な干渉を受けたと判断した場合に、ルノーの同意なしにルノー株を買い増せる権利「改定アライアンス基本合意書(RAMA)」が2社間協定に盛り込まれた。4月にはスナール会長から持ち掛けられたルノー・日産の経営統合を日産は断っている。

 今年1月に就任したルノーのスナール新会長の最優先課題は、日産との連合のリセット。今年に入り業績が下降する日産だが、規模や収益でルノーを上回る日産にルノーは強硬姿勢を取れない。福岡市で開かれた20カ国・地域(G20)財務相会議で来日中のルメール氏は8日、日産との連合強化のため仏政府のルノーへの出資を縮小する準備があると述べた。

 世界の自動車業界は、電気自動車(EV)化とITとの連携という過去にない変化に見舞われ、巨額な開発コストやEVの先進技術を必要としている。FCAもルノーとの統合提案の裏に日産の技術が視野にあったと指摘される。ただ、仏メディアはスナール会長の舵取りに疑問を呈し、FCAとの交渉結果のいかんにかかわらず、ルノーの将来には悲観的だ。

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