ワシントン・タイムズ・ジャパン

子育てを根源から問い直そう

 11月は「児童虐待防止推進月間」だ。折しも、幼い子供が実の親によって命を奪われる事件が相次いでいる。虐待を防ぐため、親としての自覚を促すにはどうしたらいいか。社会全体で、結婚や命について根本から考える月間としたい。

 20年間で増える一方

 1878(明治11)年に日本を訪れた英国の女性旅行家イザベラ・バードはその著書『日本奥地紀行』に、「私はこれほど自分の子供に喜びをおぼえる人々を見たことがない」と書いている。このほか、米国人考古学者エドワード・S・モースら、明治初期に日本を訪れた多くの欧米人から、わが国は子供を大切にする国として称賛された。

 だが、それから100年以上経過すると状況は大きく変わってしまった。1990年代に児童虐待が社会問題化し、児童虐待防止法が施行されたのは2000年11月のことだった。

 これにちなみ、児童虐待問題への社会的関心を高めようと、04年に防止推進月間がスタートした。今年の標語は「さしのべた その手がこどもの 命綱」。本来、親が命綱のはず。その親から虐待され、命が奪われる子供がいることを思うと胸が痛む。

 先月末には、出産直後の乳児を公園に捨てたとして東京都大田区内の夫婦が逮捕された。この夫婦は「これまでに赤ちゃんを3人捨てた」と供述しているという。大阪府では、1歳の次女を床に落として死亡させた疑いで38歳の父親が逮捕された。

 厚生労働省の統計では、全国の児童相談所(児相)が昨年度に把握した児童虐待は6万7000件近くに達し、過去最高だった。過去10年間で3倍近くに増えた計算だ。しかも、この20年間、前年度を下回った年はなく、増える一方である。

 虐待そのものが増えているのではなく、虐待に対する周囲の関心が高まり、これまで隠れていたものが顕在化したとの見方もある。しかし、子供は「社会の宝」として、周囲が大切に育てていた時代とは違って、外国に誇れる子育て文化でなくなってしまったことは否定しようがない。

 政府や行政が虐待の増加に手を拱いていたわけではない。児相の職員や相談窓口を増やす一方、虐待を受けている子供を早期に保護するため、児相と警察の連携を強化する努力などの対応は取っている。04年には関係機関の連携強化を促すための法改正も行った。しかし、虐待をなくすどころか、増加に歯止めさえかけられない状況である。

 虐待は貧困や家庭の孤立化などが原因で起きるが、根本にあるのは精神的に未熟で子供に愛情を注げない親と、そうした親を支えきれない社会だ。この問題に特効薬はないが、放置しておけば事態はますます悪化するばかりだ。

権利偏重の価値観見直せ

 子供を大切にする豊かな精神文化を取り戻すためには、未熟な大人を育てた自由や権利偏重の価値観の見直しは避けて通れない。

 迂遠なようだが、結婚とは何か、子供を持つとはどういうことか、を人間存在の根源に立ち返って考える以外に、児童虐待をなくす道は見つからない。

(11月2日付け社説)

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