«
»

10年超えた北海道師範塾

子供と向き合う余裕を

北海道師範塾会長 吉田 洋一氏に聞く

 北海道師範塾は設立から今年で12年目を迎えた。「学び続ける教師」を念頭に現役教師や教育関係者が研鑽(けんさん)を積み、これまで100人以上の教師を養成してきた。北海道師範塾のこれまでの歩みや北海道の教育界が抱える課題について吉田洋一会長に話を聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

学びの形はいろいろ
デジタル化、学校間で格差

北海道師範塾が平成22年9月にスタートして10年以上が経(た)ちました。そもそも同塾を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

 よしだ・よういち 昭和21年7月、岩見沢市生まれ。49年、明治大学政経学部卒業。同年、北海道庁に入庁。北海道東京事務所長などを経て北海道教育委員会教育長。その後、北海道社会福祉事業団理事長、北海道公安委員会委員を務め、現在は学校法人創志学園顧問、札幌視覚支援学校教育振興会会長、北海道美術館協力会副会長、藤学園理事など多数の公職を兼ねる。

 北海道師範塾の設立当時、北海道の公立学校で子供たちを取り巻く課題はいろいろありました。児童生徒の学力テスト一つをとっても、北海道は他の都府県と比べて最下位レベルにあり、また、いじめや不登校の問題も厳しい状況にありました。ただ要因を詳しく調べれば、決して学校だけに原因があるわけでも、また教える先生だけに問題があるわけでもないということです。当時の教育制度や地域経済、行政的な問題なども関連していたと思います。

 ただ、それでも子供たちのために、教師自らが少しでも意識を持って改善していくべきではないか。そうした思いを持っている教師や教育関係者が有志として集まり、教師の勉強会を立ち上げようということになりました。それが北海道師範塾の始まりです。

 当時、理科や国語など教科ごとの教育研修会はすでに全道にありました。私たち北海道師範塾は教科の勉強会ではなく、教科を超えて教師の皆さんが、子供たち一人ひとりが生き生きと育ち、十分に能力を高めていくために教師として研鑽を積んでいこうという考えの元で、当初は現職の教師を対象とする勉強会としてスタートしました。

設立した翌年から「教師養成講座」を実施していますね。毎年、そこから新しい教師が生まれていると聞きます。

 北海道師範塾の基本理念は、「共に学び、共に成長し続けよう」となっています。当初は、現職の教師の方々を対象に活動をスタートさせたのですが、北海道の子供たちの教育に携わる教師の皆さんに、私たちの理念や精神をさらに広げていくためには現職の教師だけでなく、教師になろうとして頑張っている若い人たちをサポートしていこうと考えて教師養成講座を開設しました。スタッフは私どもの会員から構成され、皆、手弁当のボランティアで始めました。

最近、全国的に教師になりたいと思う人が減っていると聞きますが。

 確かに、全国的に教師採用試験の倍率は低下しているという報告があります。その原因は幾つかあると思いますが、教師の仕事が大変だというイメージが若い人に広まっていることも要因の一つになっていると思います。保護者とのトラブルや生徒指導、課外活動、さらにはさまざまな事務作業が増えていることなどから、なかなか自分の時間が持てないといったことで、学生が敬遠しているのではないでしょうか。

 確かに、教師はいろいろな仕事をしなければならないのは事実で、時間通りに帰ることができない日も多くあります。教師が雑務に追われれば、それだけ子供に向き合う時間が少なくなるわけですから、そのためにも効率的な仕事を実現する働き方改革は必要になってきます。

 ただ、私が小学生の頃、担任の先生が夏休みなどに海水浴に連れて行ってくれたものです。今は、万が一のときを考え、そのようなことは一切なくなったようですが、昔の先生はある意味で子供たちに向き合う余裕があったのだと思います。

 今の教師の方々に対して、昔の教師のようになれとは言いませんが、子供たちに余裕を持って向き合える態勢なり仕組みを構築する必要があると考えています。

新型コロナウイルスでオンラインを使った授業が進んでいます。文科省はGIGAスクール構想を核として教育のデジタル化を推進しようとしていますが、これについてはどうですか。

 文科省は、GIGAスクール構想を打ち出し、児童生徒1人に1台学習端末を導入する方針を打ち出し、ICT(情報通信技術)の活用による子供たちの学びを保障できる環境の整備に力を入れています。こうした中、昨年は、新型コロナ禍により多くの学校が長期間の休業を余儀なくされ、各学校では児童生徒の学習機会の確保に向けその対応に追われたといいます。学校の中にはズームなどを使い遠隔授業をやったところもあれば、分厚い宿題を出してそれで終わりという学校もあったといいます。そういう意味では、学校間の取り組みに大きな格差が出る結果となってしまいました。

 新型コロナは教育環境にも大きな影響を与えていますが、一方では、長期間の休業を通して、従来のように学校において集団一斉、対面授業が当たり前ではなく、いろいろな学びの形があり得るということを実感したところです。

 特に、「令和の日本型教育の構築を目指して」という中教審の答申において「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実して授業改善につなげていくことが求められており、これに応えていくためにはICTの積極的な活用は極めて重要な課題となっています。とはいえ、例えばオンラインでの授業を進めるにしても、地域や学校、さらには各家庭において通信環境や通信機器の整備に大きな差があることも事実で、これら格差の解消が大きな課題といえます。

 また、学校においてICTの機材を揃えれば授業改善が進むというわけではありませんので、教師の皆さんはICTの有効な活用に向け、情報の収集や学び合いなどを通して、活用力の向上に一層努めていただく必要があります。

文科省は「個別最適な学び」をうたう一方で、「協働的な学び」をうたっています。「社会に開かれた教育課程の実現」ということで地域と学校の距離が縮まってきました。

 現在の学校を取り巻く環境を見ると、学校が抱える課題は、学校の中だけで完結しない状況になっていますし、地域の教育資源を活用しながら地域の実情を踏まえた特色ある学校づくりを進めていくためには、これまで以上に地域との連携を深めていく必要があります。

 これまで「地域に開かれた学校づくり」を進める観点からコミュニティー・スクールが推進されてきましたが、今は、これをさらに一歩進め、「地域と共にある学校」への転換が求められています。いずれにせよ、意欲と情熱を持って子供たちに向き合う教師が求められているのだと思います。

1

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。