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一クラス35人学級

自己研鑽の気構え必要に

北海道教育大学札幌校学校臨床教授 横藤 雅人氏に聞く

 政府は2月2日、公立小学校の一クラス当たりの上限人数を35人とする義務教育標準改正法案を閣議決定した。40年ぶりとなった大規模な引き下げによって教育はどう変わっていくのか北海道教育大学札幌校学校臨床教授の横藤雅人氏に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

小規模化は時代の流れ
教師一人当たりの負担は軽減

北海道教育大学札幌校学校臨床教授 横藤 雅人氏

 よこふじ・まさと 1955年生まれ。78年、北海道教育大学教育学部卒業。札幌市立小学校教諭、教頭、校長として勤務し、2016年まで北広島市立大曲小学校校長。16年から北海道教育大学札幌校学校臨床教授。21年度から瀬戸SORAN小学校校長として赴任。主な著書に『子供たちからの小さなサインの気づき方と対応のコツ』(学時出版)『5つの学習習慣』(合同出版)など多数。

 教える教師にとって学級での人数が少ない方が当然、児童一人ひとりへの目が行き届きます。これまで40人をマス(上限)にして一斉に授業を進め、それぞれの児童の個性や能力を引き出す教育をしてきました。しかし、40人だと教師の負担は結構大きいものがあります。例えば、テストの丸付けから提出されたノートの確認、さらに児童の個人懇談から部活動の顧問、家庭訪問など教師の仕事は際限がないといっても過言ではありません。

 ところが、一学級の上限が35人となると36人で二つのクラスに分かれます。つまり、18人と18人。このくらいの少人数になると欧米並みの学級規模になり、教師の負担も軽減化していきます。その分、児童一人ひとりに対して目の届く教育ができる、というのが最大のメリットになります。学級の人数が減少すれば、子供たちがクラスで友人をつくる機会も限定されるし、討論でも議論が深まらない可能性も高くなるなどといったマイナス面もあるかもしれませんが、小規模化は時代の流れになると思います。

目が行き届くとのことですが具体的には。

 教師が教室で児童が問題を解く様子を歩きながら見て回ることを「机間巡視」または「机間指導」ともいいますが、一クラス20人くらいだと教師の目はよく行き届きます。歩きながら一人ひとりの児童の解き方や様子が本当に頭にストンと入る。これが40人だと一回りした後、最初に見たあの子どうやって解いていたかな、と思ってしまうことがあります。よほど修練しないと40人学級の児童を一度に把握するのは難しい。加えて、40人学級では机と机の間が狭くスムーズに回れないこともあります。これが20人前後だとゆとりを持って机間巡視できます。

 さらに言えば、児童のノートを見るにも20冊程だと一気に片付けることができます。30冊を超えると別の仕事が入ってくることが多く一気に片付けるのは難しくなる。一方、教師は授業だけではなく、部活動や保護者へのお便り作成、安全管理などさまざまな校務を抱えています。学級が小規模化すれば、教師は増えますから一人当たりの仕事量は緩和されます。加えて若い教師が増えれば、初任者教員の教育も手厚く行うこともできます。

来年度から公立小学校では35人学級が進められていきます。その意味合いは。

 昭和34年、小学校の1学級の人数は法律で50人と定められました。それが昭和39年に45人、55年に40人と引き下げられ、今回、複数学年での35人にとなったことで40年ぶりの引き下げとなります。その要因は何といっても、教師の働く環境の改善があると思います。

 現在、教師の働き方改革が議論されていますが、教師の仕事は“ブラック”だという風潮があります。私どもの大学でも入学してきた学生から、「モンスターペアレントと呼ばれる保護者は多いのですか」「教師は夜遅くまで仕事をしていても残業代も付かず本当にブラックなのですか」といった質問を受けます。

 マスコミが教師の仕事は“3K”だというイメージをつくり上げているきらいがあると思いますが、世間もマスコミの報道に誘導されているようで教師になることに不安を持つ学生も少なくありません。それを反映してか、ここ数年の教員採用試験の受験倍率が低下しています。2019年度の全国公立小学校の倍率は2・7倍でした。ちなみに北海道は1・3倍。ただ、教員採用試験の倍率が3倍を切ると教員の質が確保できないといわれています。

 教師という仕事にやりがいを感じ、教育に情熱を持つ教員を確保し、育成するためには教師の働く環境を改善する必要がある。35人学級はそうした質の高い教育の提供と教師の働く環境の改善という意味合いがあると思います。

「35人学級」が定着していく中で、教師の在り方も変わってくるのでしょうか。

 「教員の仕事はきりがない」ものなのです。ですから残業手当も付きません。教員特別手当といって公務員の給与にプラス4%上乗せされていますが、正直にいって割に合うものではありません。

 ほとんどの教師は帰宅しても常に学級の子供たちのことや授業について考えています。「今日見たあのテレビの話題は明日の授業で使えるな」とか「今日あの子元気がなかったな」といった具合に一日中子供たちのこと、学校のことに“浸(つ)かって”いるといっても過言ではありません。これが教師という仕事の宿命なのだと思います。逆に、これが楽しいと思えたら教師の仕事ほど面白い職業はありません。

 教育基本法9条には、「学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」とあります。残業代が出る・出ないにかかわらず、お金に関係なく生徒のことを純粋に考える。頂いた給料の中で身銭を切って勉強し子供たちの成長に関与していく。私は、これが教師の仕事のやり甲斐(がい)なのだと思います。それは、見返りを求めるものではありませんが、それが子供たちの輝きに結び付いたり、いつの日か感謝の言葉となって返ってきたりしたときの喜び、これ以上のものはありません。

 小規模学級になって仕事が減る分、むしろ、生徒一人ひとりに向き合う時間が増えると考え、研究を重ね自己を研鑽(けんさん)していく気構えが必要だと思います。

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