«
»

地域と家庭、学校に新風 コミュニティースクール

北海道十勝管内中札内村前教育長 上松丈夫氏に聞く

 かなり以前から子供たちの教育は学校、地域、家庭の連携が重要だと叫ばれてきた。文部科学省は平成29年度から全国の小中学校に対して地域住民や保護者が一定の権限を持って学校運営に参画するコミュニティースクールの導入に対し、それまでの任意義務を努力義務に変更した。そうした中、北海道十勝管内の中札内村では12年前から村内にある小中学校のコミュニティースクール化に取り組み、昨年、その実績が認められ文部科学大臣表彰を受賞。この期間、コミュニティースクール導入に向け主導して取り組んだ同村の前教育委員会教育長の上松丈夫氏に導入の狙い、手法などについて聞いた。(聞き手=湯朝 肇・札幌支局長)

大切な目標と情報共有
社会と家庭の連携が不可欠

子供の教育は学校だけでなく地域、家庭の連携は重要だと昔から言われてきました。しかし、家庭教育あるいは地域の教育となると、なかなか見えない部分がありますが。

上松丈夫氏

 うえまつ・たけお 昭和21年3月生まれ、旭川市出身。43年、北海道教育大学旭川校を卒業。上川管内の小学校教諭、北海道教育庁で社会教育課を担当。平成15年から旭川市内の小学校校長を歴任し平成18年3月に退職。20年4月に北海道教育大学旭川校教職大学院准教授。同年10月十勝管内中札内村教育長に就任。3期9年8カ月を務め、平成30年5月に退職。現在は北海道教育委員会の「北海道講師バンク」「キャリア教育に関わる講師」所属講師などを務める。

 日本の教育の中で学校教育はかなりの力が注がれています。しかし、家庭教育あるいは地域を対象とした社会教育はどうでしょうか。近年、生涯学習の推進により社会教育の充実が薄れ、特に家庭教育の充実への力が弱まっているように思います。家庭教育は現在、社会教育の中に位置付けられています。

 社会教育法第5条には、「家庭教育に関する学習の機会を提供するための講座の開設及び集会の開催並びにこれらの奨励に関すること」とあります。平成12年の文部科学省の社会教育に関する審議会報告にも、「家庭教育は基本的な倫理観、社会的マナーなどの基礎を子供たちに育むものであり、教育の出発点である」とはっきりと記しています。私は、子供を取り巻く状況を考えるとき家庭教育の充実が今こそ重要だと考えます。国の諮問機関である教育再生会議の報告には、「家庭、地域の教育力の向上」を掲げていますが、家庭教育を充実させるために何が必要か、子供たちの成長や家庭の教育力を向上させるため地域とどう連携し、体制づくりをすべきかなど実践する場である市町村において具体的な取り組みがなされていません。その辺が日本の教育で弱い部分といっていいと思います。

そのような中で、中札内村で9年8カ月間教育長としてコニュニティースクールの導入に尽力されましたが、どのような点を中心に心掛けられたのでしょうか。

 平成18年に旭川市内の小学校校長を退職し、20年4月から北海道教育大学旭川校教職大学院准教授として教鞭(きょうべん)を執っていました。その10月、十勝管内の中札内村から教育長としての話がありに大変悩みましたが、意を決し同村に赴きました。教育者として同村の人づくりに貢献したかったからです。前述したように子供の成長には学校教育だけでは完結しません。車の両輪ともいうべき社会教育と家庭教育の連携が欠かせません。とりわけ家庭教育の充実は不可欠でこれをおろそかにすることはできないのです。その一方で、現代社会を見れば家庭の孤立、児童虐待や貧困問題などが一層クローズアップされています。

 そこで、私は赴任早々、「北の大地 なかさつない共育宣言」を打ち出しました。具体的にはまず、「子供の笑顔はみんなの元気 かわいいからこそ甘やかさない」をスローガンに五つのテーマで実践目標を立てました。それは、「品格のある大人を育てる」「規則正しい生活習慣を身につける」「自然や大地の良さを伝える」「地域の教育力で子供を育てる」「温かい家族のきずなを深める」です。この「共育」の考え方は、二つあります。一つは、地域の大人が力を合わせて子供たちを共に育てる。そしてもう一つは、大人がこの活動を通して共に育つということで、まさに人づくりであります。

 さらに、それらを行動として表すためにCS(コミュニティースクール)アクションプランを打ち出しました。共育の実践を、「あたま(知)」「こころ(徳)」「からだ(体)」「ふるさと(郷土愛)」に分け、それぞれ学校、家庭、地域がなすべきことを担当していくわけです。

 例えば、「あたま」の部分で学校は、「『わかった』『できた』が実感できる授業づくりに努める。体験的な学習、生活・社会とのつながりのある学びを充実させる」。家庭は、「家庭内で楽しく集中できるような学習環境をつくる。子供の学習内容に関心を持つ」。地域は「子供たちが没頭できるものを常にもてる環境を守る。ボランティアで学習を支援する」といった具合に、テーマごとに学校、家庭、地域に目標を共有化して実践しています。

家庭教育充実に焦点を当てたプランはあったのでしょうか。

 教育の原点はやはり家庭です。家庭教育を充実させることが子供の成長には不可欠であることは間違いありません。そういう面から家庭でできること、家庭にしかできないことがあるという視点から、「家庭で子供の豊かな心をはぐくむ7つの提案」を掲げて家庭にクリアファイルを配布して実践していただくことにしました。すなわち、①家庭のルールを作る②早寝・早起きの実践③朝ご飯を食べる④家庭学習の習慣⑤読書の時間を持つ⑥家庭内の挨拶の実践⑦運動―です。これら一つひとつの重要性はこれまでにも言われてきたことですが、村内の家庭全体で取り組むことにしました。もちろん、各家庭が七つの提案をすべて一気に実践するのは大変ですから、どれか一つを選んで家族全員で取り組んでいただいています。

こうした地域、家庭、学校の連携が進みコミュニティースクールの導入が進んだ背景には何があると思われますか。

 一つは平成18年に教育基本法か改正され、そこには教育の原点は家庭にあること、学校、家庭、地域社会の3者が緊密に連携・協力して子供の教育に当たるという視点が打ち出されています。これによって、子供の教育は学校、家庭、地域社会が共に目標を共有化し連携していくという方向性が明確になりました。

 また、コミュニティースクールへの村民の理解があったこともありますが、何よりも導入に向けての体制づくりができたことが大きいと思います。コミュニティースクールは家庭と地域が学校に入って子供たちの成長に一緒に行動していかなければなりません。地域住民や保護者は単に学校長の指針や方針を聞いて終わりというわけにはいかないのです。地域、家庭を巻き込みながら実際に家庭教育を充実させ、社会教育を実施していく。これを学校に丸投げしてすべて責任を負わせることはできません。地域、家庭、学校は一緒になって子供の成長、人づくりに携わっていかなければならないのです。そのためには地域、家庭、学校の全体を見る人的配置が必要となってきます。そこで私は教育委員会の中に専門職として社会教育主事を配置しました。そうすることで学校、地域、家庭は政策的、予算的な後ろ盾を得ることができます。そうした体制づくりの基盤ができたことが一番大きいと思っています。

今後、どのような活動を進めていきたいと考えておられますか。

 北海道はコミュニティースクールの導入は全国に比べ遅れてはいますが、徐々に広がってきています。旭川市でも今年度から導入が始まりました。現在、学校教育は「生きる力の育成」に主眼を置いていますが、家庭教育支援の基本的な考え方は「自助、共助、公助」だと考えています。保護者が主体的に担うべき家庭教育としての「自助」、地域で支え合う「共助」、そして大きな仕組みづくりを担う自治体の役目としての「公助」。この三つを柱として新しい人づくり教育に少しでも貢献していきたいと思っています。

1

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。