«
»

いじめはなくならない

いじめ見過ごさない大人に

『こども六法』著者 山﨑 聡一郎氏に聞く

 文部科学省が10月22日に公開した「問題行動・不登校調査」で、全国の小中高校などが2019年度に認知したいじめの件数が過去最多を更新したことが分かった。件数は6年連続で増加の一途をたどっているものの、けんかやふざけ合いなどもいじめと見なすようになり定義が広がったことで、認知が進んだとみる動きもある。新型コロナウイルスの災禍で大人も子供も疲弊している中、身近な大人がより一層子供たちの声を聞き、寄り添うことが求められる。このほど、法律を知ることで子供がいじめから身を守れるようにと、ベストセラーともなっている子供のための法律書『こども六法』を昨年、出版した山﨑聡一郎氏に話を聞いた。
(聞き手=辻本奈緒子)

早期発見に向け備えを
習慣付けたい意思疎通

『こども六法』制作の経緯は。

『こども六法』著者 山﨑 聡一郎氏

 やまさき・そういちろう 平成5年、東京生まれ。教育研究者、写真家、俳優、合同会社Art&Arts社長、慶應義塾大学SFC研究所所員。慶應義塾大学総合政策部卒業、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。修士(社会学)。学部3年時に研究奨励金を受給して法教育副教材『こども六法』を作成。オックスフォード大学に短期留学し、政治教育への演劇的手法の導入方法を学んで単位を取得した。いじめ問題に関する研究・情報発信を行いながらミュージカル俳優としても活動している。

 小学校高学年の時にいじめに遭っていた。打撲・擦り傷・切り傷は日常茶飯事で、骨折や捻挫するほどの怪我(けが)を負わされたり、今思えば犯罪になるようなことだった。中学生の時にたまたま図書室にあった六法全書を手に取り、いじめられていた当時に法律を知っておけばよかったと思った。大学で研究テーマを選択する際、こうした経験が影響し、法律を教えることを通じていじめ問題の解決につながるのではないかと考え、「『法教育』を通じたいじめ問題解決」という研究を始めた。

 大学3年時に大学から研究奨励金を受けて『こども六法』のプロトタイプを作成したが、出版までには5年かかった。法律を分かりやすい言葉と短い文章に「訳す」ことは簡単な作業ではなく、多くの出版社に断られたが、専門家らの助けを経て出版に至った。当時は電子書籍が台頭すると強く言われていた時期だったが、学校に、できれば各教室に1冊ずつ置いてほしいとの思いから、紙の本にこだわった。

講演などで子供たちと接して感じることは。

 子供は私たちが考えている以上に大人だ。大人に対する理想が高く、それになりたがっている。『こども六法』のレビューに子供には難し過ぎるという意見もあるが、小学校高学年向けなのに4、5歳の子が読んでいるという親の声も届いている。

 子供のすごいところは、素朴な疑問に純粋に向き合えることだ。大人は、少年法や性犯罪、交通事故も厳罰化すれば減るだろうと短絡的に考えるが、子供は「本当にそうだろうか」と疑問を抱く。「刑罰って人権侵害だよね」「人権侵害(犯罪)した人に人権侵害(刑罰)するって矛盾しているんじゃないの」と問い掛けてくる。子供は思想が柔らかい。法律の複雑な仕組みを複雑なまま理解する力が、大人よりも子供たちにあると感じる。

教育現場への提言は。

 いじめ問題に現場で対応するのは教員だが、忙しく余裕がないのが実態だ。「いじめ防止対策推進法」というと負担が増えるように聞こえるが、実際は教員を助けるための法律だということを理解してほしい。「これさえ守っていれば楽です」と話す先生もいる。

 教員は転勤がある方がいいと思う。教員が固定化してしまうと、その先生の型から漏れる子供が出る危険がある。子供は年々流れていくので、教員も流動的でいい。ただ少子高齢化は学校現場に顕著で、定年退職などで辞める教員が多い一方、若い世代の負担が増えていると感じる。子供も減っているが、それ以上のペースで教員の数が減っているので、教員一人当たりの負担が重くなっている。

 成績の向上は、子供の身と心の安全が取れた上で望める。子供の安全を実現するために、まず教員の心身の安全に取り組むべきだ。教員が忙しくなるといじめへの対応が遅れ、児童・生徒も余裕がないからいじめが起きる。神戸で教員同士のいじめが話題になったが、そうした場所でも、きっと先生自身が忙しかったのだろうと想像できる。

いじめの早期発見には何が必要か。

 子供の些細(ささい)な変化に気付ける人は、意識してコミュニケーションを習慣付けている。「いってきます」「ただいま」と毎日必ず言うようにしていれば、いつものパターンから外れたときに「少し声のトーンが違うな」と気付くことができる。気付こうと神経を尖(とが)らせるよりも、習慣をつくっておくといいと思う。

 また、「今までスマートフォンをずっと気にしていた子供が突然全く見なくなった」といったサインは、10年前はあまり見られなかったものだ。以前はいじめは学校など友達のいる場所で起こるもので、家では起こり得なかったが、ツールが発達したことで24時間場所を問わずいじめが起こる環境に変化してきた。

 特に教員は、いじめをなくそうという意識を持たない方がいい。「一件たりとも起こしてはならない」と思うと、起きた時に黙殺してしまう。いじめは台風のようなもの。どこでも起こり得るし、対策したからといってなくなりはしないが、早く見つけて起こった時に対処できるよう備えることが大切だ。

犯罪になるような悪質ないじめもある。

 いじめ=犯罪と見ると、本質が見えなくなる。例えば、集団で無視するなどはいじめになり得るが犯罪ではない。いじめという広い定義の中に犯罪も存在するという認識だ。

今後の展望は。

 いじめ問題解決に携わる人が適切に報酬を得ることができるようにしたい。慈善団体やボランティアでは、相談が増えるほど運営が難しくなる。子供から対価を得るのは難しいとしても、事業を維持するには適正な報酬が必要だ。

『こども六法』を通じて何を伝えたいか。

 法律というと血の通っていない冷徹な印象があるかもしれないが、「罪を憎んで人を憎まず」の論理で公平に互いを尊重するようにつくられている。

 いじめに遭っているからといって無理に助けを求める必要はない。本来は求めなくても、大人が気付いて子供を守らなければいけない。ただ『こども六法』で法律を調べることが一つの選択肢になればいいと思う。

 親や先生はいじめに気付き解決しようと意気込むよりも、見た時に逃げない大人であってほしい。

4

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。