ワシントン・タイムズ・ジャパン

高等教育無償化の改憲に反対

秋山 昭八弁護士 秋山 昭八

大学の質の低下に拍車
拡充すべき低利教育ローン

 大学、短大など、高等教育の無償化を新たに憲法に書き加えることには反対である。国の基本理念として、永続的な無償化が必須だという国民的合意が形成されているかについては議論が不十分で、唐突な印象が否めない。

 高等教育の主な担い手である大学の全てが、公費で入学金や授業料を免除すべき公共財としての価値を持つのか、大きな疑義がある。国際的な評価が振るわず、質の低下が懸念される大学の現状を放置したまま、一律に無償化を進めることの妥当性を検証すべきである。

 私立大学の44%が定員割れしており、一部の大学では受験生集めを優先し、学力評価と選抜が機能していない現実があり、少子化はこの傾向に拍車を掛けている。

 日本では、高校を卒業すれば大学受験資格がある。高等教育を受ける者の能力を測る「資格試験」の導入などが検討されてきたが、制度化には至っていない。入試改革は道半ばである。現状のまま無償化で門戸を広げれば、さらなる大学の質の低下を招くことにならないか。

 文部科学省の試算によると、高等教育の無償化に約3兆1000億円の財源が必要とのことである。大学には高度な研究を推進し、その果実を社会に還元する機能が要請されている。教育と研究に投じる財源にも留意する必要がある。

 欧州では、時々の社会情勢も踏まえ柔軟に対応しているが、英国は財政事情などから無償を有償にした上、卒業後の所得に連動して授業料を返済する「出世払い」方式を採用している。ドイツは有償、無償の判断を州政府に委ねている。

 2025年に日本は団塊の世代が75歳以上になり、医療費や年金などの社会保障費が膨らむ。憲法改正による恒久的な教育無償化は将来にわたり多額歳出を固定化することになる。

 一律の無償化は、進学意欲の高い高所得世帯に大きな恩恵をもたらすことになる。経済的に恵まれない学生向けの「給付型奨学金」の拡充など、まずは教育を受ける機会の均等に向けた現実的な政策の積み重ねが要請される。

 高等教育の無償化を、憲法改正に前向きな世論を醸成するための手段に利用しているとの批判を免れない。

 先の衆院選でほとんど全ての党が公約に掲げたのが教育無償化である。幼児教育の無償化、大学などの高等教育の授業料減免、給付型奨学金の拡充とバリエーションはそれぞれだったが、教育の負担減が共通の公約に浮上した背景として大きいのは、やはり選挙権年齢が18歳に引き下げられたことであろう。教育無償化は大学受験世代や子育て世代に手っ取り早く訴求する、要するにバラマキ公約なのである。大学無償化について言えば、国に授業料を負担させて学生を呼び込みたい大学側の思惑もある。

 サービス合戦で教育無償化を票につなげようというのが、政治家の魂胆と言える。

 高校までを義務教育として、国の責任で完全無償化すべきである。社会人としての教育は、高校までに身に付けさせればいい。大学は「稼ぐ力」を増やしたい人が行くのだから、学費などを自己負担するのは当然である。高校を出た「大人」が自分の判断で「人より稼ぎたい」「同期よりも収入を増やしたい」と考えるなら、自分への投資は自分ですべきである。

 本当に必要なのは無償化ではなく、低利の教育ローンの拡充である。大学に行かなかった人よりも極端に言えば「稼ぐ力」は2倍、3倍になっているはずだから、借金は確実に返せる。自分の身を切る以上、真面目に勉強するから、投資がペイする可能性は高い。大学院に進んだ場合も、より稼ぐ力を付ける目的なら自己負担が原則だが、ドクターコース(博士課程)で、深い研究に関わる場合には、公的な支援があっていい。この分野は国の研究開発、あるいは地方の産業育成など国力に関わってくるので、きちんと奨学金を出して税金でバックアップする必要がある。

 高校を義務教育にして無償化する場合の財源は、それほど難しくない。今、ほとんどの県で公立高校の無償化制度が実施されている。2010年からは私立高校でも家庭の所得に応じて就学支援金が国から支給されるようになっている。

 今や世界に影響を与える注目論文数の占有率で、中国がアメリカに追い付き、日本は世界第9位に落ち込んでいる。文科省の教育プログラムは西欧社会に追い付き追い越せ時代のものであり、答えがあった時代の遺物だ。このカリキュラムでは、これからの世界で競争力のある人材は生まれてこないから、日本は間違いなくジリ貧になる。

 教育の目的をハッキリさせて、世界に通用する立派な市民をつくり出す義務教育に切り替える時期に来ている。健全な民主主義は、唯一賢明な市民によってのみキープされる。教育の成果として、18歳に選挙権を与えることになれば、今の衆愚政治は起こらない。そのような前提の下に義務教育を徹底的に見直して、国がその費用を全額負担する、という意味の教育無償化であるなら、賛成である。

(あきやま・しょうはち)

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