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広がる社会人の“学び直し”

リカレント教育

小樽商科大学大学院教授 李 濟民氏に聞く

 人生100年時代が到来する。その一方で人口減少が進み、男女共働き、定年70歳は当たり前の社会になってきた。こうした社会の変化に合わせて政府は働き方改革を推し進めようとしている。安倍内閣は政策の一つとして「人づくり革命」を掲げているが、その中で社会人の「リカレント(学び直し)教育」の重要性を挙げる。そこで社会人のリカレント教育にいち早く取り組んできた小樽商科大学大学院商学研究科の李濟民・アントレプレナーシップ専攻教授に、同大学大学院の取り組みと「学び直し」の重要性について聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

求められるスキルアップ
多様な就業社会ニーズ

小樽商科大学が社会人を対象に大学院を開設したのはかなり早いと聞きましたが、それはいつなのでしょうか。

李 濟民氏

 イー・ジェミン 韓国ソウル市出身。小樽商科大学商学修士。延世大学大学院経営学科博士課程修了。小樽商科大学商学部助教授、同教授を経て大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻教授。2016年よりグローカル戦略推進センター産学官連携推進部門長。専門は経営戦略、国際経営、ビジネスプラニング。

 全国の国立大学は2004年、独立行政法人に移行しました。それに合わせて本大学でも組織を改編し、ビジネススクールとして専門職大学院アントレプレナーシップ専攻をスタートさせました。専門職大学院といえば当時、ロースクール(法科大学院)が話題になっていましたが、ビジネススクールも制度としては同じです。東北以北ではビジネススクールを有している国立大学は小樽商科大学だけです。

当時、ビジネススクールの開設はスムーズにいったのでしょうか。

 ビジネススクールは社会人が対象になりますので、教える側の教授陣も相応の社会的な実務経験が求められます。文部科学省の規定では教員定員の3分の1以上が民間企業や研究所で5年以上の実務経験を有していなければならないとされていました。当時、小樽商科大学には資格を有する教員が定員の2分の1近くおりましたので比較的スムーズに開設されたのではないかと思います。

ビジネスの世界でアントレプレナーシップという言葉がよく出てきますが、そもそもアントレプレナーシップとはどういう意味なのでしょうか。

 直訳すると「起業家精神」といい、ベンチャーを起こすための経営マインドを表します。つまり新しく事業を立ち上げるために必要な創造性やリスクを顧みない勇気をいいます。ただ、私どもの大学としては必ずしもベンチャーにとどまってはいません。リカレント(学び直し)という社会ニーズがあり、また企業や行政機関においても変革が求められています。そうした変革のためのプロジェクトを実現することも社内ベンチャーとして、起業家精神と同様に「企業家精神」と捉えています。

社会人の「学び直し」に対するニーズをどのように見ていますか。

 1期生として本専攻に入学した学生ですが、その方は大阪外語大でロシア語を専攻され商社に入り、ロシアで商社マンとして、かなりの成功を収めたそうです。入社して20年以上がたち、子供たちも大学に入学したのですが、学部で学んだ知識がある意味で賞味期限を迎えたと感じたのでしょう。次の段階へのキャリアアップを考えて本専攻に入学したというのです。

 経営学は実践的な科目で企業経営者として体系的に物事を考えるときの基礎や土台になるものです。またビジネススクールでは学生時代の基礎教育とは違い、経営や実務でのスキルアップや知識を得ることができるという点では非常に有益性が高い。本専攻の履修生もそうした点を踏まえて入学してきていると思います。

ビジネススクールのスケジュールはどのようになっているのでしょうか。

 学生のほとんどは社会人で昼間、職を持っていますから、授業は夜間になります。平日は午後6時半から始まります。そこで本専攻の特色の一つとしてモジュール型授業を採用しています。通常、大学の授業は90分を1時限にしていますが、モジュール型授業では1回の授業を2時限連続(90分×2)で1モジュールとして集中的に行います。例えば、私が担当する「経営戦略Ⅰ」という科目でいえば午後6時半から9時40分まで続けて授業を行い、8モジュール履修することで2単位の習得になります。

 ただ、学生からすると平日に3、4科目履修しても単位が足りないので土曜日には小樽本校で2モジュール受講することがあります。時間にすると午前10時30分から午後5時40分まで、それが隔週の授業となりますから、学生にとっては結構ハードかもしれません。

 モジュール型授業では、1モジュールで一つのトピックを完結させ、それらを体系的に積み上げて履修してもらう形を取っています。修士論文は課していませんが、その代わりにビジネスワークショップという科目を取ってもらいます。

ビジネススクールで履修する学生の中には理工系大学の出身者が多いのではないかと思います。そのような学生が会計学など専門性の高い授業に対応できるのでしょうか。

 確かに学生の中で理工系の出身者は多く、医療系の方も増えてきました。中には会計学や財務分析など勉強したことがないという学生もいます。そういう学生のためにプレ科目という講座を開設し、そこではマネジメントの基礎、企業会計の基礎、財務分析の基礎といった授業を受けることができます。ちなみに本専攻の専任教員数は全部で16人います。学生定員が35人ですから、教授と学生の比は1対2でほぼマンツーマンに近い形で指導できる態勢になっていますので深い指導が可能なのも本専攻のメリットといえます。

最後に北海道の経済活性化の処方箋について、どのように考えますか。

 北海道の経済活性化のキーワードは何といっても「食と観光」になります。また、最近では全道各地にワイナリーが増えてきました。ニセコなどを見ても分かるように北海道を訪れる外国人観光客が年々増加しています。

 16年3月に北海道新幹線が開業し、31年には新函館北斗-札幌間が開業します。こうした北海道のさまざまなコンテンツを生かすためには、広域観光という視点で新たなサービスを展開することが重要になってきます。そこで小樽商科大学では15年にグローカル戦略推進センターを設置し、翌年から本格稼働させました。そこでは教育研究支援、産学官連携、国際交流を柱に他大学連携はもちろん、学外の多様な専門家を「提携コンサルタント」として起用し、さまざまな基幹プロジェクトを立ち上げ、地域の経済活性化に貢献していきたいと考えています。

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