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【フランス美術事情】収集家が芸術家を支える

ロシア革命前夜の時代、ロシアに渡った仏名画の里帰り

「女優ジャンヌ・サマリーの肖像」または「ラ・レヴリ」、1877年作 ピエール=オーギュスト・ルノワール作 © Museedes beaux arts Pouchkine

「女優ジャンヌ・サマリーの肖像」または「ラ・レヴリ」、1877年作 ピエール=オーギュスト・ルノワール作 © Museedes beaux arts Pouchkine

 大革命後の産業革命と近代市民社会の形成期にあったフランスには、その自由な雰囲気を求めて世界中から芸術家や収集家がパリに集まっていた。その中にはパリを芸術の憧れとしていたロシア人の富豪収集家も名画を求めてやって来た。ロシア革命前夜の時代でもあった。

 今はコロナ禍で激減した富豪のロシア人観光客を待ちわびるパリだが、19世紀にはフランス同様、ロシアは農奴改革令などで自由を得て実業家として財を成したロシアの新興ブルジョワたちが古典作品だけでなく、印象派などの新しい芸術作品も買いあさっていた。

 曽祖父のサッヴァ・モロゾフが農奴から実業家に転じ、富豪となった血筋を引くミハイル・アブラモビッチ・モロゾフとイワン・アブラモビッチ・モロゾフ兄弟が収集した作品約200点を集めた「モロゾフ・コレクション展」(2022年2月22日まで)がパリのブローニュの森にある超モダン建築のルイ・ヴィトン財団美術館で開催されている。

 同美術館は2016~2017年にかけて「シチューキン・コレクション展」を開催し、それに続くロシア人収集家の大規模展覧会だ。

 シチューキン家とモロゾフ家は、ロシアの芸術収集の概念を王侯貴族から大衆に広げ、フランスの当時前衛的だった近代画家に対する国際的な評価を高めることにも貢献した。二つの家はロシアの文化活動に影響を与えた双璧だ。

 モロゾフ兄弟のコレクションが、本国ロシア以外で公開されるのは初めてで、その意味は大きい。マクロン仏大統領も展覧会に訪れ、スピーチを行った。

 モロゾフ兄弟のコレクションにはセザンヌ、ゴーギャン、ゴッホ、ルノワール、モネ、マティスなどフランスの印象派、フォービスムの巨匠たちの作品と共に、マレヴィッチなどロシア人作家の作品も展示されている。

 兄のミハイルは芸術に情熱を注ぐ一方、社交界で遊ぶ浪費家として知られ33歳で早死にしたが、ロシアにゴーギャンとゴッホ作品を持ち込んだ最初の人物。

 実はロシア人は芸術への理解が深く、ロシア革命前夜に兄弟がパリで注目した画家の多くが後に巨匠となった。無論、ロシア革命で消え去った作品もあるが多くが生き残ったという。

 当時の記録では、ロシアの大金持ちがパリで絵画を買いあさっていることを聞きつけ、さまざまな画商が作品を売り付けに来たそうだ。サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館とモスクワのプーシキン記念美術館、同じくモスクワのトレチャコフ美術館の協力の下で、今回の展覧会は実現した。

 展示されているルノワールの作品「女優ジャンヌ・サマリーの肖像」は、ルノワールの肖像画の最高傑作ともいわれている。ロシアのプーシキン美術館でしか見ることのできない作品がパリにやって来た。

 ロシアから門外不出の19世紀後半から20世紀前半のエコール・ド・パリの時代の作品群、しかも革命後、鉄のカーテンの向こうの凍土で生き延びた作品群だ。

 その時代に限定されて収集された、それも当時は無名だった画家たちの作品群を鑑賞できる意味は大きい。パリっ子たちは感慨深く鑑賞している。コロナ禍明けとはいえ、予想以上の来館者を集めている。改めてロシアの収集家がフランスに集まった芸術家を支え、貢献したことを知る展覧会ともいえる。

(安部雅延)

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