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頼朝の「お前にだけ話す」という手法は不変だ

 1180年8月17日、源頼朝は平家に対して伊豆で決起した。それに先立って頼朝は、部下を一人一人呼んで「お前にだけ話す」と断った上で決意を告げた。

 聞いた者は「自分は頼朝に特別に思われている」と思ったという(山本幸司著『頼朝の天下草創』講談社学術文庫)。頼朝は各メンバーには口外を禁じたとのことだから、秘密は一応は守られたのだろう。決起は成功を収めて、頼朝は歴史の表舞台に登場することとなった。

 「お前にだけ話す」という政治手法は、永田町を描いた本でも昔読んだことがある。頼朝から800年たっても、この手法は変わらない。頼朝の話を知らなくても、永田町関係者はそんなことは体得していただろう。

 頼朝にしても「お前にだけ話す」という方法を歴史書で学んだ可能性も高い。何であれ、人間に対する頼朝の洞察力が遺憾なく発揮された場面だ。「弟の義経に比べて、頼朝には面白味がない」などと言われるが、微細に見れば、頼朝も彼なりの魅力は持っていたのだろう。

 伊豆の事件は、間もなく京都に伝わった。朝廷の実力者九条兼実は、伊豆決起を「謀叛」と呼んだ(日記『玉葉』9月3日)。

 兼実はその後、頼朝と提携することになるが、そのころはさすがに頼朝をテロリスト呼ばわりすることはなかっただろう。「お前にだけ話す」の手法は、人間と人間との出会いのあらゆる局面で普通に行われている。こうした事情は今後も変わらないはずだ。

 (サムネイル画像:Wikipediaより)

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