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辛夷・椿は日本の早春の原風景を彩る花である

 春めいた陽気に誘われて、近所の緑道を久しぶりに歩いた。ところどころ水仙の黄色い花の群れる道を行くと、梅の花が凛(りん)と咲き、椿(つばき)の紅が濃い緑に映え、辛夷(こぶし)も白い花を付けていた。春はすぐそこまで来ている。

 梅は上代、中国から移植され、万葉集の歌からも舶来文化の象徴として珍重されたことがうかがえる。これに対し、辛夷は日本特産。千昌夫さんの「北国の春」にあるように、東北地方の山野に多く自生する。

 東北生まれでない気流子には、椿が最も春の到来を感じさせる花だ。日本原産の椿であるヤブツバキは、葉の表が艶々光る常緑照葉樹の代表で、主に海岸沿いに自生する。17世紀、オランダ商館員のケンペルが著書で初めて欧州に紹介。その後、スウェーデンの生物学者リンネがその記載に基づき「カメリア・ジャポニカ」の学名を付けた。

 欧州では19世紀に園芸植物として流行。フランスの作家デュマ・フィスの小説で、イタリアの作曲家ヴェルディがオペラにした「椿姫」は、そんな椿ブームを背景に生まれた。

 英国ロンドン郊外の王立植物園(キューガーデン)は、プラントハンターたちが世界各地から集めた植物を育てている。珍しい植物を観(み)ながら広い敷地内を一巡りして疲労を覚えていた時、小さめの温室に椿がたくさん咲いているのを見つけ、懐かしさに疲れも吹き飛んだ。

 日本人にとって早春の原風景を彩る花は、北は辛夷、南は椿ということになるのだろう。

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