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自粛の間、隣近所の美しい風景を見直してみたい

 「初景色野川一本光り出す」(中村明子)。歳時記を見ると、新年の部は「初」の付いた季語が多い。「初春」「初空」「初日」「初富士」などをはじめ、実にさまざまなものがある。昨年と同じであっても、年を越したことでいったんリセットするからだろう。

 「初景色」もその一つ。『今はじめる人のための俳句歳時記』(角川文庫)には「元日の淑気満ちた風景をいうが、風光すぐれた景色ばかりでなく、ありふれた田の畔(あぜ)や町並みも詠まれ、かえって情趣が深い」とある。

 日本人はこのような自然観を持って生活してきた。しかし、このたびの1都3県に対する緊急事態宣言で、初旅行などの移動は自粛せざるを得なくなった。再び仕事もテレワークで、インターネット環境で生活することになる。

 民俗学者の柳田国男が、全国各地を回って民俗文化を取り上げたことはよく知られている。その柳田が明治から昭和初期の東北地方を旅して書いたのが『雪国の春』。

 そこに、柳田の日本人の名所や名勝崇拝に対する批判が展開されている。「よい景色という語はかえって空に聞こえる」として、名勝地・松島へ行った時の体験を述べ、「松島ならずとも多くの島山は皆美しいわけである。とにかく名所はわれわれにとって、実は無用の拘束であった」。

 日本の自然は名所でなくても美しいというわけだ。この自粛期間、われわれの住んでいる隣近所の何気ない風景を、もう一度見直してみたいものである。

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