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「墨塗り教科書」の伝説、事実に基づいた検証を

 敗戦直後に「戦前の教科書に墨を塗って使った」という伝説が75年たった今も残っている。そこに疑問を投げ掛けた人がいる。文芸評論家の秋山駿(2013年没)だ。

 『私の文学遍歴』(作品社)という本の中で、敗戦時15歳の少年の記憶として、墨塗り教科書の記憶は全くないと証言している。

 ①そうした教科書がどの期間使われたのかはっきりしない②教員の権威が失われた時代、教師が「墨を塗れ」と命令したとして、そんな指示に従う生徒はいなかった――というのが秋山説だ。

 教科書のエピソードは、教師も含めて権力を持っている人間がいかに愚かだったか、そんな人間が多かったから無謀な戦争をしたという文脈で語られることが多い。

 推測で言うしかないのだが、墨塗り教科書のエピソードは一部ではあったかもしれないとしても、伝説として今日流布されているほど一般的ではなかったというのが真相ではあるまいか。

 「戦前の時代への反発を物語る話として有効」と考える人々が影響力を行使したため、検証が全くなされないまま安易に伝えられてきたというのが実態だろう。戦争を含む歴史についての伝説や通説は、不断に見直される必要がある。織田信長への評価にしても、近年「信長は意外に保守的だった」という方向に変化している。「昔から言われているのだからそうなのだろう」というのは怠惰だ。墨塗り教科書に限らない。事実に基づいた検証が今後も求められる。

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