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アイデンティティーの否定は憎しみを生む

 フランス・パリで預言者ムハンマドの風刺画を生徒に見せ、イスラム過激思想を持つ男に殺害された教師の政府主催の追悼式が行われた。2015年、週刊風刺新聞シャルリエブドの編集部が襲撃されて12人が殺害され、全土で抗議デモが起きた。それ以来の宗教と表現の自由をめぐる緊張が続いている。

 一人のテロ犠牲者のために政府主催の追悼式が行われるなど、他の国ではまずあり得ない。この問題が表現の自由というフランスの国民的アイデンティティーに関わるとの認識があるからだろう。

 追悼式に参加したマクロン大統領は「生徒たちに教えた自由をこれからも守り、政教分離を貫く。風刺画を見せる自由も諦めない」と述べた。大統領は、イスラム教が禁ずる風刺画を生徒に見せ、多くのイスラム教徒の心を傷つけた教師の行動を全面的に肯定しているようである。最高勲章を授与し、自由の殉教者として扱っている。

 一方、イスラム教徒にとって、教師の行為はムハンマドへの冒瀆(ぼうとく)にほかならず、それを教育現場で行った。人間は自分が尊く思うものが侮辱された時、自分が侮辱された以上に傷つくものだ。

 フランス人が事件に怒るのも、最も尊く思う自由が脅かされたと思うからだろう。いまフランスで起きているのは、双方のアイデンティティーの衝突だ。

 アイデンティティーの否定は存在そのものの否定に等しい。互いに尊重する姿勢がなければ、憎しみの連鎖が続くだけだ。

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