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自然に逆らわず、老化を冷静に見極める

 イベントの規制が緩和されたものの、まだ劇場や映画館へ足を運ぶ気になれない。そんな中で飢えを癒やしてくれるのが、テレビの公演録画。歌舞伎座の2月公演「人情噺文七元結」の録画をNHKで観(み)たが、長兵衛役の尾上菊五郎のいなせな演技にほれぼれした。

 7代目菊五郎は、当年77歳。最近は70、80代でも歳(とし)を感じさせない人が多いが、7代目は歳を重ねてますます色気を増している。

 「長生きも芸のうち」とは、吉井勇が昭和の名人、8代目桂文楽に贈った言葉だが、伝統芸能の場合、歳を取るほど味が出てくる傾向がある。とは言え、肉体的な衰えは誰も避けられない。

 ポーランドのピアノの巨匠、アルトゥール・ルービンシュタインは、晩年も見事な演奏を続けたが、加齢による影響を最小限にとどめるための努力をしていた。演奏のレパートリーを絞り(選択)、それを集中的に練習し(最適化)、手の速い動きを求められる部分の前の部分を遅くすることでコントラストをつける(補償)などだ。

 これは心理学者のR・B・バルテス博士のインタビューに答えたもの。この選択、最適化、補償によるマネジメントの重要性をバルテス博士は、英語の頭文字を取ってSOC理論と呼んでいる。以上、増本康平著『老いと記憶――加齢で得るもの、失うもの』(中公新書)による。

 世はアンチエイジング流行(ばや)り。しかし、その王道は、自然に逆らわず、老化を冷静に見極めることのように思われる。

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