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万葉集では、日本固有種の桜よりも梅が多く詠まれた

 「青梅の臀うつくしくそろひけり」(室生犀星)。ある日、帰宅すると台所に青梅の匂いが充満していた。匂いに敏感な方ではないが、この梅の匂いは嫌いではない。妻に聞いてみると、梅干しを作るということだった。

 といっても、手軽に赤シソの葉を使って塩漬けしたようなもので、本格的なものではなかった。かつて故郷にいた時、母が梅干しを庭に干している風景を思い出した。食べられるようになるまで結構時間がかかったことを覚えている。

 梅は中国原産で、日本にはかなり昔に渡来したらしいが、具体的に日本文化の中に出てくるのは、遣唐使が往来した奈良時代あたりから。最古の歌集『万葉集』で梅の花が盛んに詠まれたことで知られるようになった。

 万葉集では、日本固有種の桜よりも梅が多く詠まれた。当時の知識人の先進文化への憧れが根底にあったと言えよう。それだけであれば、珍しい花として観賞されるだけで終わったかもしれない。

 角川春樹編『現代俳句歳時記 夏』(ハルキ文庫)によれば、梅はもともと花をめでるよりも実を薬などとして利用してきた。「梅酢・梅肉エキス・梅干し・梅酒・煮梅・梅ジャムなどその利用範囲は広い」とある。

 特に、梅干しは殺菌や疲労回復などに効果があるとされ、食中毒が多い梅雨の季節にはいかにもふさわしい。花の美しさとともに実の利用価値が高かったため、梅は桜と並んで日本を代表する花となったのである。

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