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イスラム教の総本山アズハルの担う責任

イスラム教スンニ派総本山アズハル本部正門

イスラム教スンニ派総本山アズハル本部正門

 エジプトにある“世界的組織”の中で超重要と思われるものの一つに、イスラム教スンニ派総本山「アズハル」がある。イスラムへの関心が少ない日本ではほとんど知られていないが、全世界のイスラム教スンニ派の中心組織である。

 エジプトへの赴任を前にして中東に詳しい知人から話を聞いた時に、「エジプトにはアズハルがあります。今後深くお付き合いすることになるのでは」と言われ、「何、そのアズハルとは?」と問い返したことを憶えている。

 アズハルには世界最古の大学と言われるアズハル大学(創設972年)があり、ここには世界中のイスラム教スンニ派指導者の子弟(現在の学生総数約30万人、うち外国人留学生は約3万2000人=マレーシア約6000人、インドネシア4000人、タイ約3000人など)が集って、イスラム法を含むイスラム教全般を学び、全世界にイスラム教スンニ派指導者として輩出されていく。

アズハル大学正門

アズハル大学正門

 エジプトでは、大学だけではなく、高校、中学、小学、幼稚園に至るまで、アズハルが経営する教育施設が全国に広がっており、国民に幼児の頃から徹底したイスラム教育を施している。 

 日本ではエジプトと言えば、ピラミッドやスフィンクスなど、ナイル文明の発祥地、古代王国のイメージが浮かぶが、国民の90%がイスラム教徒のイスラム国家で、アズハルの果たしている役割が大きいとされる。

 しかし、残虐なテロ行為で世界中を震え上がらせたイスラム過激派組織「アルカイダ」や「イスラム国(IS)」、「ボコ・ハラム」などは皆、イスラム教スンニ派の一部が過激化したものであることから、アズハルの教育責任が問われても来た。

カイロ市ハンハリーリ付近のモスク

カイロ市ハンハリーリ付近のモスク

 ムバラク大統領時代の同組織の最高責任者、タンタウィ師にインタビューした際に、過激派に対する教育責任を質問した。同師は、「彼らを正常化させる責任は政府にある」として、アズハルの直接の責任を否定したのが意外だった。その後、副責任者に同じことを問うたところ、「コーランには一切暴力を肯定する表現はない」と答え、過激派の勝手な解釈によることを匂わせただけだった。

 これはどう見ても苦しい言い逃れとも思えた。イスラム教は、キリスト教のように分派が拡散することを警戒、コーラン解釈の自由を制限、解釈の権限を極く少人数に限ってきた。そのため、コーランの語句を盾に暴力を肯定・実行する過激派に対し、敢然と反論し、彼らを納得させることが出来ていないのが現状だ。コーランの研究や解釈の自由を原則禁止してきたことは、他宗教に対しても、イスラム教の絶対性だけを主張、他宗教を排斥する独善性や排他性を生んできたとされる。

 現在のエジプト、シシ政権は、ISなど過激派のあまりの蛮行ぶりに業を煮やすとともに、責任逃れに終始するアズハルに対し、過去の一切のイスラム書籍から、暴力肯定の表現を取り除くよう要請した。さすがにアズハルもそれを受け入れて世界会議を開き、徹底した暴力追放のキャンペーンを張った。ところが数年後、アズハル内部から反旗が上がったらしく、現在はその動きが止まっているとの懸念の声も聴かれる。

アハマド・タイエブ師(イスラム教スンニ派総本山アズハルの最高責任者)

アハマド・タイエブ師(イスラム教スンニ派総本山アズハルの最高責任者)

 前述の通りアズハルは、全世界にイスラム教スンニ派指導者を送り出しているだけに、その影響力は大きく、イスラム教の未来を左右することは間違いない。誰よりも責任をもって、先頭に立って、イスラム過激派対策を指揮する責任と権限があるはずだ。

 そのために避けて通れない道は、コーラン研究の自由だろう。生やさしい道ではないことは間違いないが、現在の閉鎖された研究の現状からは、キリスト教が経験した宗教改革や教義の柔軟性、過激派対策は出てこないに違いない。

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