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はやぶさ2来年夏のリュウグウ到着における科学者達への大きな挑戦

廣井孝弘

 2014年10月3日に打ち上げられた小惑星探査機はやぶさ2は、とうとう来年の夏に小惑星リュウグウに到達する。長い惑星探査ミッションにおいて1年を切った現在、チームにとっては秒読み段階ともいえる。衛星運用チームだけでなく、はやぶさ2科学チームにも大きな挑戦が待っている。

 リュウグウはC型小惑星であり、太陽光の反射率は可視領域で約5%しかない暗い天体である。はやぶさが2005年にランデヴーしたS型小惑星イトカワと比べると10分の1くらいの明るさである。さらに、C型とS型の違いは、S型の場合、隕石の大部分を占める普通コンドライトと同様に、岩石に一般的に含まれている鉱物が、反射スペクトルを通して「見える」ことだ。

 ここで、「見える」と書いたが、可視光で見える情報は限られており、実際はそれより波長が長い近赤外光において、各鉱物に特徴的な反射スペクトル(厳密には、鉄イオンによる吸収)が見えるのである。S型は宇宙風化をしていても、C型より明るいし、波長とともに明るくなるし、反射スペクトルに特徴があるので、その物質組成を調べやすいのである。

 一方、C型小惑星の場合、対応すると考えられる隕石は、炭素質コンドライトであるが、実験室で様々な炭素質コンドライトを測定した結果わかることは、その暗さと目立った特徴の乏しさによって、普通コンドライトよりも反射スペクトルによる解析が難しいことだ。

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炭素質コンドライトの1つの異なった粒度の試料を様々な位相角(光の入射と出射方向の間の角度)で測定した時の緑色の光の波長での反射率の変化。

 例えば、普通コンドライトのように透明鉱物が多い隕石が小惑星上で粉の状態(レゴリスという)であったとして、その粒度を調べるには実験室で試料を砕いてふるいで分けて反射スペクトルを測定して変化を調べればよい。一方、炭素質コンドライトで同じようなことをしようとしても、粒子が0.1mmくらいまでの大きさになると、それ以上大きくなっても反射スペクトルは大して変わらない。

 また、光が当たる角度(入射角)や反射を測る角度(出射角)を変えたときに反射率がどう変わるかを調べる(測光)という手法があり、その結果によって物質の種類を見極める試みがされている。筆者が最近そういう測定を炭素質コンドライトについて行って学会で発表をしたが、過去の研究を引用しようとしたら、何と1980年にLinda Frenchという研究者がコーネル大学に提出した博士論文まで遡る必要があり、それ以降は見つからなかった。PDFファイルになっていないので、ブラウン大学を通して他大学からその本を取り寄せてもらう必要があった。

 その理由は様々あるだろうが、対象として高質のデータの測定が難しいということと、モデル化してその仕組みを理解するのも難しい。また、はやぶさ2プロジェクトが始まるまでは、誰もC型小惑星にランデヴーして、様々な角度条件で反射スペクトルを解析する必要が出るとは思ってもみなかったのかも知れない。

 その上、今回のミッションは試料回収なので、リュウグウ上のどこから試料採取したらよいかをONC、NIRS3、TIRといったセンサー類のデータに基づいて決めないといけない。特にONCカメラのうちの望遠タイプであるONC-Tから得られる多色二次元画像から、物質の種類、レゴリスの粒度、そして宇宙風化度を各領域についてある程度求められる期待がかけられている。これはとてつもなく大きな挑戦であり、世界中の科学者たちも、はやぶさ2やOSIRIS-RExといったミッションがなければ取り組む動機も起こってこなかったであろう。

 以上のようなテーマは、この機会に日本の若手研究者が取り組んでプロになっているのが理想的である。しかし、現実にはそのような研究者が存在しないのが問題である。このままでは、ミッションはうまくいっても、この分野の科学成果は外国勢に先を越されてしまうだろう。遅ればせながら、やはり私が、はやぶさベテランとして再びリードして頑張っていかねばならないのかもしれない。

(2017年8月2日記)

普通コンドライト:コンドリュールと呼ばれる1mm程度の球粒と金属鉄などがマトリックスに埋められた構造をもつ隕石で、金属鉄が多い順にH、L、LLと分類され、合わせて隕石の圧倒的大部分を占める。太陽系の初期にできた後、溶けずに生き残った始原的物質と考えられている。

反射スペクトル:光の反射率を波長ごとにX-Yグラフに取った曲線で、そこに現れる吸収帯(曲線が窪んだ所)の波長などからその対象物質の種類などを調べられる。

炭素質コンドライト:普通コンドライトと同様にコンドリュールを含むが、故郷の母天体における水の存在などによって変化した含水鉱物や、有機物を含む。普通コンドライトよりも圧倒的に少ないが、そのもろさによって地球の大気圏に突入した時に破壊される率が高いためと考えられる。

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