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世界に誇るべき“主人意識”持つ日本の児童生徒たち

廣井3

 先月6月には韓国への出張の前後に日本に2週間ほど家族で滞在し、各地で特別授業や講演会を行った。日本の小中高校を巡って、改めて日本の良い意味での特殊性を実感した。私のように海外で子供たちを育てた経験がある親ならば誰でも感じることだと思うが、教育研究に関わる者として、私としては非常に重要なことに思えてきた。

 最近は周知されてきたかと思うが、日本のように児童生徒たちが学校の清掃をし、給食の配膳をし、当番制で草木の手入れ・文房具購入・国旗掲揚などの雑事をこなす制度を持つ国は、先進国の中ではほぼ皆無であろう。我々はそれを当たり前のように小学校に入学してから12年間、学校生活の一部としてきた。これの意味することは非常に大きいと思う。一言でいえば、子供たちが学校の「主人」たる意識を持っているのである。

 私が講演会や特別授業で学校に着くと、児童生徒たちがしばしば挨拶をしてくる。もちろん挨拶は道端やよその家でもするわけだが、学校を上記のように管理するチームの一員となっている子供たちがする挨拶は違うのである。そこから、「ようこそ私たちの学校へ」という、雇われ人やお客さんでなく、主人としての気持ちが伝わってくるのである。それは、子供たちと一緒に学校を管理する先生方からも同様である。

 私は何年も前に、九州をバスで移動している際、乗り換えた直後に財布を落としていることに気づいたことがある。バスの終着点である福岡の営業所に電話すると、財布はその中身(なんと18万円の現金とグリーンカードなど)はすべてあり、届けてくれたのが隣に座っていた男性なのか、運転手なのか、何の記録もない。まるで、当たり前の日常茶飯事のことのようである。私が住むボストンでは、州営の地下鉄で従業員が財布を拾って中身ごと届けたというのが新聞記事になったのと対照的である。

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鹿児島第一中学高校で講演をする筆者

 そのような、拾ったものを届け、人様のものはその人にお返しするという、当たり前の行動は、私は高校を卒業するまで受けた素晴らしい初等中等教育に原因の一部があるのではないかと思う。このような、社会を変えるほどの素晴らしい教育制度を、アラブなどの諸国が採用しようとするのは当然である。アメリカもぜひ見習うべきであると思うが、それは搾取であるとか、子供が怪我をしたらどうするだとか、いろんな法的な些細な問題にとらわれ、大きな機会を見逃しているのである。

 私が日本の学校で話をするのに、さらなる助けは、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)制度である。科学技術振興機構(JST)の以下のウェブサイトによると、200校が指定されて補助を受けている。いくらかの批判もあるようだが、私のようにボランティアで講演をするための旅費が出るのは非常に助かる。
https://ssh.jst.go.jp/school/list.html

 6月の帰国時には、杉並区の高井戸第三小学校、鹿児島第一中学高校、そして島根の益田高校で特別授業・講演会をさせてもらったが、最初の2校は他の講演会などで知り合ったコネから実現したものであるが、益田高校は、私がSSHサイトから情報を得て、直接電子メールをした結果として実現したものである。以前にも、久留米の明善高校、札幌開成高校、広島国泰寺高校などがそのように私の提案を受け入れてくれ、次回11月の帰国では、香川の観音寺高校でも講演する話が進んでいる。

 もちろん、見ず知らずの人間からのダイレクトメールに反応したり、私の帰国の日程に合わせて学校行事として講演会や授業をさせてくれる学校は多くない。話がまとまる確率は10%くらいであろうか。特に、大都会でなく、地方の方が受け入れてくれる確率が高いように感じる。

 私が大学2年生の19歳の時、加藤泰三氏の「青春とは何か」というような題名の本を読んで、ある主張に同感して実践してみた。それは、「学校で勉強してきただけで、どの大学で何を専攻して、どういう職業に就くかを決めることは無理である。この世にどんな人がいて、どんな職があるかを知らないからだ。そのためには多くの本、特に伝記など人の人生を語ったものを読むべきである」というような主張だった。

 現在はインターネットで世界中のいろんな人の生活・仕事・趣味に触れられるが、やはり書籍は深く良くまとめられていると思う。その夏、私は66冊の本を読んで、いろいろ人生が変わった。自然食を始めたのもその時である。SSHなどで招く外部の講演者たちはそのような人々と実体として間近に交流できる機会を提供している。

 そういう観点で、私が訪れて話をする学校の児童生徒たちが、アメリカで変わった研究をし、日本の惑星探査にも貢献している一研究者の人生を知ることにより、自分たちの将来の学問・職業選択の参考にし、また日本を超えた広い世界の一端を垣間見る機会として活用してくれたら幸いである。

(2017年7月14日記)

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