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「君の名は」と「奇跡の隕石」から見た幸運な地球

廣井孝弘

 2月に私の大学まで取材に来てくれたNHK BSの「コズミックフロントNext」の放送が最近あった。その「奇跡の隕石」と題するドキュメンタリーの宣伝ページを見ると、大ヒットアニメ映画「君の名は」を引用してあり、そこに出てくる彗星が湖に落ちるシーンと同じように、彗星のかけらかもしれない隕石がタギシュレイクに落ちたという解説であった。最初は突拍子もない例えだと思ったが、よく考えてみれば頷くところも多々ある。

 NHK取材班が来たのは、私がタギシュレイク隕石の反射スペクトルを2000年に初めて測定し、それがD型小惑星という、とても暗くて赤い、過去には対応する隕石が見つかっていなかった小惑星と似ていることを発見したからだ。この隕石は非常にもろいもので、その母天体に氷があったために多くの含水鉱物を含み、有機物を含む炭素化合物に富み、彗星の氷が暖かめの環境で岩石と反応してできた、彗星と小惑星の中間の存在かもしれない。今後の火星衛星や木星のトロヤ群探査にも関連する隕石である。

 映画を作るには、やはり彗星のように美しい尾を引く天体を扱った方がよいだろうし、彗星が分裂するというのもよくある現象であり、かつドラマチックである。ただし、彗星の氷が岩石と反応してかなりなくなった後のはずのタギシュレイク隕石でさえも、その湖に落ちた時には細かい破片になり、最大でも2~3kgの塊に過ぎなかった。この隕石の元の大きさは4m程度と見積もられているが、これより多くの氷などの揮発成分を含む彗星の場合、よほど大きくない限り、空中で爆発分解してしまうと思われる。

 「君の名は」で分裂して落下した隕石が1kmのクレータを作ったとある。このような映画を劇的なストーリーとして作るためにも、また地球に彗星や小惑星が落ちてくるという現象に人々を注目させるには、その危険性を強調した方がよいには違いない。しかし、本当にそれは科学的に公平な見方であるかどうかが問題である。タギシュレイク隕石もしくはそれより弱い物質の塊が彗星であるとすれば、彗星はよほど大きく、大気圏で分裂しないほど強いものでないと大きな衝突にはならない。そういう場合は、むしろ小惑星の方がありうると考えられる。

タギシュレイク隕石

タギシュレイク隕石(Wikipedia掲載、Mike Zolensky氏提供)

 小惑星帯には最大500km程度のものから様々な大きさの岩石片があるが、普段地球に接近する「近地球小惑星」として地球と火星の間を回っているのはせいぜい10km程度の大きさである。そして、周期が短いために、何度も観測され、地球に近い距離に来る時期も計算できる。近地球小惑星に対応するのは、最近NASAが研究している軌道変更の試みを含め、有望であると思われる。

 問題なのは、火星と木星の間の主ベルト帯や、木星領域のトロヤ群や、さらに遠い冥王星領域のカイパーベルトやオールトの雲あたりから突然軌道を変更してくるような小惑星があった際である。小惑星同士が衝突したり、ニアミスして軌道を外れ、突如として地球に直進衝突するような軌道になりうる。カイパーベルトやオールトの雲のように全貌が分かっておらず、太陽系外の天体の重力の影響も受けやすい領域からの天体は一層厄介である。

 ただ、彗星と小惑星の違いで分かるように、太陽から遠く低温領域にいた天体は、氷などのもろい物質に富む場合が多く、地球型惑星領域で出来た岩石や金属に富む物質よりは比重も小さく破壊されやすい。主ベルト帯も、初期に起こった木星などの大きな天体の移動や重力の影響、そして相互衝突の結果、既に割と安定したゾーンができている。また、熱輻射に原因するヤルコフスキー効果によるランダムな軌道変更などは、大き目の小惑星には有意に影響しない。

 そして、おそらくタギシュレイク隕石が経験したような加熱によって氷が反応する水質変成現象は、彗星が太陽により近い軌道を何度も回った後でないと難しいだろう。そうであれば、彗星が固くなるまでにきっと何度も観測され、突然現れた天体という事にはならない。また、地球のそばには非常に大きな衛星である月があり、地球でなくて月に衝突する天体も多いことを忘れてはならない。

 以上を総合的に考えると、地球の生命を脅かすような巨大衝突が非常に稀なのは、地球の位置と、その大気および大きな月の存在と、惑星移動を含む太陽系の小天体の進化の歴史、そしてその結果としての物質分布が全て好都合にできているからだと考えることができる。地球への天体衝突の危険は存在するのであるから話題にするのは構わないが、如何に地球が守られた環境にあるかという観点も忘れないでほしいものである。

(2017年4月27日記)

 ヤルコフスキー効果 特に自転する小惑星の表面が太陽光によって暖められる温度の違い(日の出と日の入りの差)により、熱輻射が特定方向に強く働き、それによってその小惑星の公転速度が変化して軌道が変わる効果。

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