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惑星科学における“天地統一”が急がれる韓国

廣井孝弘

 先月2月の始めに1週間だけ韓国に出張をした。ソウル大学(SNU)の天文学科の石黒正晃氏のところで基本的にお世話になったが、大田にある韓国天文研究院(KASI)と、仁川にある韓国極地研究所(KOPRI)にも行くことができた。その名からもわかるが、KASIは日本の国立天文台(NAOJ)と宇宙科学研究所(ISAS)が一体化したようなものであり、KOPRIはまさしく立川にある国立極地研究所(NIPR)に相当する。

 石黒氏とは12年前、探査衛星はやぶさが小惑星イトカワにランデブーしていた2005年当時に、相模原の宇宙研に滞在しながら、特に宇宙風化について協力して成果をあげた昔馴染みである。当時はポスドクだった彼も、今は副教授を9年勤める身分に昇進した。それでも、恒久職に就くにはあと1年は頑張る必要があるらしい。研究費を実力でバリバリ取ってきている優秀な科学者になったようだ。日本の大学教授たちも見習うべきであろう。

 今回ソウル大に行った目的は、私の専門である隕石と小惑星の鉱物分光のセミナーと共同研究の議論である。石黒氏のもともとの専門は黄道光のような太陽系の塵の熱輻射の観測であり、学生たちと共に研究室では、小天体からの熱輻射からその表面状態、とくに岩肌があるとか、いろんな大きさの粒子(レゴリス)があるとかを調べたり、小惑星の可視・近赤外光領域での太陽光反射の測光や偏光の研究もしている。また、KASIでも惑星分光学の様々なテーマの概要を講演してきた。どちらも、6月にまた再訪する予定である。

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韓国天文研究院(KASI)

 私の専門である分光では、主に波長を変えながら惑星物質の反射・吸収を見て物質の同定やその状態を調べるが、測光や偏光は数少ない波長しか用いないが、角度依存性や光の電磁場の振動方向の変化を調べることで物質の主に物理状態を調べるものである。どれも固体惑星物質の遠隔探査に必要不可欠な手法であるが、日本では、はやぶさ・かぐや・はやぶさ2といった惑星探査ミッションとともに活性化してきた感があるが、韓国では石黒氏の研究室以外はまだまだのようである。

 KASIで聞いた話では、韓国は既に2つの月探査ミッションを計画している。最初は軌道上からの観測、そして2つ目は着陸機を下す。月に衛星を飛ばすのは比較的簡単だが、遠隔探査で獲得したデータをどう解釈して月科学に生かすかは大きな挑戦である。JAXAのSELENE(かぐや)に刺激されて月探査衛星ブームとなった2007~09年の期間の成果として、日本、米国は世界トップクラスの科学的成果を発表したが、中国、インドはそうでもなかったことを見ても分かることである。科学成果を得るためには、「どこで何をいかなる範囲と精度で測定したらよいか」を見極めて機器を設計製作し、得られたデータを校正し、高次解析し、実験室などで既知のデータと比較し、新規の科学的発見をしたことを説得力を持って英文で書かねばならない。その過程のどれが抜けても駄目である。

 ソウル大でもKASIでも、私が研究しているような隕石の分光や、天体表面物質の物理状態の影響の話は貴重であるという感想をもらった。一方で、KOPRIでは東大の長尾教授などが牽引して隕石の研究を盛んに行っているが、天文や遠隔探査という分野には疎く、はやぶさ・はやぶさ2ミッションのように試料が帰ってくれば何かできるという話である。私は学生時代から、天文と地質・鉱物の境界領域のような、小惑星と隕石を結び付ける研究をしてきたので、日本では極地研と宇宙研を行き来しながら、極地研では隕石の素人であると言われ、宇宙研では天体や衛星のことを知らないと言われながらも、両者の橋渡しや統合科学に尽力してきた。

 天文学科と地学科は、伝統的に大学では全く別の学科である。その中間的なものが地球物理学であり、東大では地学科と地球物理学科は一体化したが、やはり天文学科は別である。そういう天文の「天」の恒星などの学問と、地学の「地」の岩石・鉱物に関する学問とが一体化しなければ、惑星科学、特に惑星探査は成功しない。この“天地統一”の過程が、米国のNASAにしてみればアポロ計画時代から既に半世紀以上実施されてきているのだからすごい。

 日本では、かぐや・はやぶさミッションは1995~96年頃始まっているので、約20年間の歴史があるが、韓国の惑星探査はまだまだである。石黒氏などの過去10年来の尽力もあり、はやぶさ2では韓国勢も共同研究者として参加しているが、自前でミッションをやるという意味では、95年当時の日本の状況にあるのかもしれない。私は在米ながらも日本の惑星探査の科学成果のために、この20年間大きく貢献したと思っているが、結局、日本での職を得ることはできなかった。韓国はそのような日本の轍を踏まず、専門家の知識を謙虚に取り入れ、有用な人材に投資していくならば、行く先は明るいかもしれない。しかしながら、先行する日欧米との競争は激しく、それ故に日本と密に協力してやっていくのが賢明かもしれない。

(2017年3月3日記)

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