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4光年しか離れていない地球型惑星?

廣井3

 英国科学雑誌 Nature に最近発表された研究論文で、地球からたった4光年しか離れていない場所に地球と似た大きさと表面温度を持つ惑星が見つかったという結果がニュースになった。こういう報告があると、マスコミは生命が存在するのでは?とか、人類が住めるのでは?とかいう話題を強調するし、観測・計算した科学者たちもそういう観点を動機としてしまう。その方が研究費を取りやすいという事情もあるのだろう。
http://www.nature.com/articles/nature19106

 今回の発見は、よくあるトランジット法という、惑星によって中心星からの光が遮蔽されるのを観測したものでなく、中心星の近くを回る惑星の重力によって中心星の位置がある周期で振動するために、そこからの可視光の波長がドップラー効果でズレるのを観測して、その振動速度から惑星の重力や軌道などを求めているらしい。

 確かに、今までよりもずっと近くに地球に似た平均温度らしい惑星が見つかったことは大きな変化である。しかし、この惑星を調べてみると、とんでもない場所であることがわかる。例えば、以下の Wikipedia のページにまとめてあるので、その日本語ページを見てもらうとよい。
https://en.wikipedia.org/wiki/Proxima_Centauri_b

 まず、一番の問題は、その惑星「プロキシマ・ケンタウリb」が中心星の至近距離を1周たった11日程度の高速で回っていることである。中心星はわれわれの太陽の8分の1程度の質量であるとはいえ、太陽―地球の距離のたった20分の1の距離を回っているこの惑星は、中心星の重力による影響を大きく受ける。その軌道が円に近いかどうかに依存するが、潮汐作用といって、惑星の各部分にかかる中心星からの重力の違いによって、われわれの月のように自転と公転が同期して、同じ面を中心星に向けている可能性が大きい。1年中(といってもたったの11日)、半球はずっと昼間で、その反対の半球はずっと夜が続いていることになる。たとえ大気や水があったとしても、その表面温度の高低は大きくなるだろう。熱平衡で考えた平均温度は-40℃と推定されているので、水が液体で存在しうるのは、太陽が当たっている表の一部だろう。

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太陽圏の星間媒質(NASA JPL)

 われわれの太陽系で言えば、水星がこの惑星にちょっと近いが、水星でも水は全く存在しないと考えられている。更に、この惑星上のX線環境はひどいだろう。陽イオンが高速で飛んでくる太陽風と違い、基本的に電磁波であるX線は、地球のような磁場がもしあったとしても、遮蔽することはできない。そんな環境で本当に生命は存続できるのであろうか?

 あとは、中心星であるプロキシマ・ケンタウリの温度がわれわれの太陽の温度の半分である3000Kしかないことだ。光合成は可能であるという説が多いが、地球が6000Kという高温の太陽エネルギーを得て、300Kという低温のエネルギーを排出しているがゆえにエントロピーの増加を抑えているという機構が、3000Kの星の周りでは減少せざるを得ない。ビタミンDを作るための紫外線も減少するはずだ。その他、中心星の光の色温度が変わることによる影響は生命全体や熱環境に大きく影響するかもしれない。

 それと、4光年しか離れていないと書いたが、現在の人類は、惑星の重力を利用してやっと太陽風の影響が終わるヘリオポーズと呼ばれる場所である180億kmに2基の Voyager が到達しようとしているところである。それは約17光時間にすぎない。4光年の距離というのはその約2100倍で、Voyager の速度では7万7000年もかかる。もちろんそんなに生き延びられない。生命がいるかもしれないとか、人類が居住できるかもしれない惑星というのは魅力だが、宇宙航行技術が発達しない限り、4光年の果てというのは、まだまだ遥か彼方の世界である。それに、Voyager は弾道軌道で一方通行で飛んだだけで、はやぶさのように往復できる宇宙船ではなく、減速さえも難しい弾丸にすぎない。

 なので、今回の発見は、確かに人類の移住先を見つけていく目標としては以前よりも朗報に当たるかもしれないが、喜ぶにはまだまだ早すぎると言わざるを得ない。

(2016年9月1日記)

 ドップラー効果 光や音のような波を出す物体がある速度で動いていると、そこからの波の周波数が変化して観測されること。救急車のサイレンが、近づいてくるとき高い音に聞こえ、遠ざかっていくときに低い音に変わるのもドップラー効果の一例である。

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