ワシントン・タイムズ・ジャパン

惑星の軌道を変えるDARTミッションと固体惑星物質科学の未来

 最近打ち上げられたNASA(米航空宇宙局)のDART(Double Asteroid Redirection Test)ミッションは、その名の通り、二重小惑星の軌道を変える試験衛星である。

 それら2つの小惑星の大きさは、中心星のDidymosが780m、衛星のDimorphosは160mと推定されており、DARTは小さい方のDimorphosに衝突して、その軌道周期をわずかに縮めると予想されている。小さいといっても、地球にもし衝突したら大災害となる大きさであり、そういう危機的状況が来た場合にどう対処できるかを試験するのが目的である。

 DARTが来年2022年にDimorphosに衝突した後、その結果は地球から遠隔探査されると同時に、2026年にESA(欧州宇宙機関)のミッションHeraが小型衛星をランデヴーさせて、詳細な調査をするという協力が行われ、それらはAIDA(Asteroid Impact and Deflection Assessment)という小惑星の衝突および軌道変更の査定をする国際的試みの一環である。

DARTのミッションを解説したイラスト(NASA)

DARTのミッションを解説したイラスト(NASA)

 これら100mから1kmの範囲の小さめの小惑星でさえ、現在の衛星をぶつけるという方法では微小にしか動かないのであれば、近地球軌道にある最大級の小惑星Erosのように17kmもあると、その軌道を変えるのは簡単ではないであろう。何年も前から軌道が確実にわかっていて、多数の衛星をぶつけてぎりぎり地球に当たらないように軌道を変えるか、SF映画のように、地球に近づいたときに核ミサイルを多く撃って破壊するかしかないであろう。しかし、ともあれ、ある種の映画に出てくるような100km程度の小惑星が近地球軌道にないのは幸いである。

 小惑星の軌道を変えたり破壊したりするための難易度は、大きさだけでなく、強度や重さや速度が問題である。速度は観測自体からわかり、大きさはレーダーや赤外線観測である程度分かるが、強度や重さは難しい。今回の二重小惑星の場合は、公転周期から中心星Didymosの質量がわかるが、強度は隕石からの類推で、Didymosのスペクトル型(太陽の可視および近赤外光の反射の色合い)が大雑把にいってX型に近いことと、明るさが中くらいであることから、硬い鉄なのか、普通の岩石質なのか、もろい炭素質なのか、まだ確証はない。更にその衛星のDimorphosについては一層わかっていない。

 今のところ、小惑星の力学的強度についてわかっていることは少なく、はやぶさが2005年に小惑星イトカワにランデヴーして初めてラブルパイルと呼ばれるがれきの山構造で空隙率が40%もある小惑星の存在を証明したのではないだろうか? 試料が帰ってきたので物質の密度がわかっているので、あとは全体の大きさと重力で計算できるのだ。

 はやぶさ2が試料を持ち帰った小惑星リュウグウも、ランデヴーの際の重力測定や比熱測定から非常に空隙率が大きな物質であると推定されており、現在進行中の試料分析の結果が待たれるところである。Dimorphosもラブルパイルだったら、DARTが衝突したときに複雑なことが起こるかもしれない。

 イトカワの大きさは約500mで、リュウグウは900mだが、物質自体の比重がリュウグウはイトカワよりかなり小さく、形状などから見ても、両方ともラブルパイルであると考えられている。なので、地球に接近しても、潮汐力によって個々の岩塊に分裂し、大きいものでもイトカワの上のヨシノダイボルダーの50m程度である可能性もある。

 そのような事実と、近地球軌道には10km程度以下の小惑星しかないことと、地層の記録から見て、生命大量絶滅は数千万年に1度しかないことを考えると、小惑星の地球衝突は差し当たって、今すぐに心配する必要はないのかもしれない。ただ、恐竜が絶滅した最後の大惨事から6500万年も経っていることを考えると、そろそろ危ないかな、という気になる人がいてもおかしくないであろう。

 私のような小惑星と隕石が好きな人間にとっては、どんな理由であれ、小惑星に行って探査をしたり、試料回収してくることは大いに賛成である。太陽系の材料物質とその初期進化を知ることで、知的生命体の宿る唯一の星地球誕生の秘密を解き明かしたいからである。

 しかし、だからと言って、小惑星衝突による危機感をやたら大きくあおって、科学研究費を多くとってこようとする偽善的誇大宣伝や、生命の起源を探るといった跳躍しすぎの論理はいただけない。生命の星地球の材料物質は見つかっても、生命それ自体を見つけられる可能性はほぼないと思うからである。

 私がDARTを始めとする小惑星軌道変更ミッションに究極的に期待するのは、地球の周りの月軌道から前後に60度離れたラングランジュ点に、金属・鉱物・水・有機物などを含む様々な物質組成の小惑星を捕獲して、科学的試料としてだけでなく、人類の宇宙開発のための補給基地とすることである。それに必要なとてつもないエネルギーをどうするかは工学者たちに頑張ってもらいたい。

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