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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    はやぶさ2のリュウグウ試料採取成功と科学的発見の醍醐味

    廣井孝弘

    米ブラウン大学惑星地質・上級研究員 廣井孝弘氏

     本日2月22日、はやぶさ2は小惑星リュウグウ表面にタッチダウンして、弾丸の発射が確認され、試料が探査機のチャンバーに採取されたと考えられる。はやぶさ初号機が2005年に小惑星イトカワに着陸したことに続き、日本が世界初のS型およびC型小惑星試料採取に連続して2度も成功したことになる。これが事実であれば、惑星探査の歴史において大きな科学的意義がある。

     まずは、ミューゼスの海という大きな平原を持っていたイトカワと違い、リュウグウは岩だらけの天体であり、一見してどこに着陸してよいのかわからない。当初の50m程度の着陸位置精度を想定して着陸候補点を探したがどこにも見つからない。ターゲットマーカーを落とすタッチダウンの練習や、ミネルバやMASCOTといったローバー・ランダーを落とした際に、リュウグウの近接高解像度画像を得るたびに、一層その懸念は増していった。

    【関連記事】はやぶさ2運用チーム、工夫凝らし「りゅうぐう」攻略

     必要に迫られて、運用チームはすでに落としたターゲットマーカーと地形認識のソフトを使って、世界初の超高精度の着地に挑むことにした。何と精度15mという離れ業である。リュウグウ表面はある程度の非均一性はあるものの、全体が極度に暗く岩や石ころだらけの天体である。太陽電池やアンテナやサンプラーホーンの方向の制限範囲以内でとにかく一番安全に試料採取ができる場所を見つけた。

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    「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」にタッチダウンする想像図

     日本全体がJAXA宇宙科学研究所の管制室の実況中継に注目し、その場に関与した者たちは13年半前を思い起こさせるような感動を覚えたに違いない。しかし、イトカワ試料とリュウグウ試料とはどこが違うのか?そして世界の惑星科学界に与える影響はどれほどのものなのか?

     まず、イトカワはS型小惑星という、隕石中の9割を占める普通コンドライト隕石に似たもので、原始太陽系で比較的高温を経験してきた物質である。一方、リュウグウはC型小惑星群に属し、比較的少ない炭素質コンドライト隕石に似たものと考えられており、過去に氷と岩石が共存していて、岩石中の鉱物に水が構造水(水酸基)として入り込んで残存しているものである。有機物も入っている。

     つまり、はやぶさ2は今日、太陽系原初に存在した水や有機物をそのまま、地球環境による汚染なく回収できる第一段階をクリアしたわけである。超高精度の着陸という危険を冒してでも挑む価値がある物質なのだ。日本がこのような大業を、限られた予算と人材で成し遂げたことは、はやぶさ初号機に次ぐ、またはそれ以上の大事件である。

     それだけではない、私が専門的に研究している宇宙風化の問題解決である。はやぶさ初号機は、イトカワのようなS型小惑星上に宇宙風化が存在しているという事実自体を世界で初めて証明したミッションであった。2006年に私がNature誌に発表した論文と、はやぶさが2010年に帰還した後のScience論文などで明らかに証明された。

     では、C型小惑星リュウグウには宇宙風化はあるのか。あるならば、本来の新鮮な表面はどのような色をしているのか。それはどのような物質であり、宇宙風化によって何が変化しているのか。そのような疑問に答えるのが、今後の探査期間であり、回収試料の解析である。

     今回の着陸地点は他の部分と同様に普通の隕石試料よりもずっと暗い場所であり、取れた試料の表面はきっと宇宙風化しているであろう。しかしながら、宇宙風化は岩石表面のごく表層(1万分の1ミリとか)だけであり、内部の大部分は新鮮なままのはずである。なので、今回の試料採取で、小惑星リュウグウの謎が解ける可能性が大いにある。

     その上に、4月に予定されている衝突実験(SCI:Small Carry-on Impactorによる人工クレーター形成)によって、地下の新鮮な物質が掘り起こされ、はやぶさ2本体のONC-TやNIRS3といった多色カメラや近赤外分光計によって物質同定ができることが期待される。そうなれば、2020年末に試料が帰ってくるのを待たずして、世界初の科学成果をどんどん発表し、試料カプセルのふたを開けて答え合わせをするのを楽しみに待つことができる。

     科学者としては、自分が研究して論文発表した内容の成否が2年以内に明らかになってしまうというのは、よほど自信がある者でない限りやりたくないか神経が磨り減るような体験となる。はやぶさ初号機の時は事故のおかげ(?)で5年くらい時間があった。しかし私はそれに挑戦したい。すべての科学者はそれができるほど自分の研究に自信と責任を持っているべきであるから。

     3月には恒例の月惑星科学会議(LPSC:Lunar and Planetary Science Conference)がヒューストンで開かれ、4月には上述の衝突実験が行われる。そして私は5月にまた帰国出張をして実験の合間に各地で講演をする予定でいる。これからの3カ月間は非常に刺激的な期間になると思われる。はやぶさ2は、国民が科学の醍醐味を味わうことのできるミッションになってほしいと切に願っている。

    (2019年2月22日記)

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