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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    月は人工物でなく天贈物である

     最近、同じこのViewPointの記事でウィーンの長谷川氏が、中国メディアが発表した「月は人工衛星説」を紹介されている。
    https://vpoint.jp/column/confidential/107560.html

     名指しで御指名を受けたので、私なりに解説したい。簡単に言うと、惑星科学から見て、その可能性はほぼゼロである。まずは各々の根拠について解説する。

    廣井孝弘

    1.月はいつも同じ面を地球に向けている

     これはいわゆる潮汐作用が原因している。地球と月のように2つの天体が比較的近くにあった時に、お互いに近い部分は重力によって強く引き合い、遠い部分はより弱い力でしか引き合わないため、各天体の表面地形や自転運動に影響を及ぼす。潮の満ち引きは主に月の引力によって起こることはその有名な例である。詳細は複雑だが、地球が月の方向にやや伸びた変形をした状態で月との重力の及ぼしあいをする結果、地球の自転は遅くなり、月の公転は早くなり(その結果地球から遠くなり)、月の自転は地球に対する公転と周期がほぼ同じになり、いつもほぼ同じ面を地球に向けることになる。以下の国立天文台のページにその解説があるが、この事実は天文・惑星科学の常識である。
    http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/C4ACBCAE2FC4ACBCAECBE0BBA4.html

    2.月は太陽とほぼ同じ大きさに見える

     アポロ計画で月面に置いてきた反射鏡に地球からレーザー光線を当てることによって月までの距離は正確に測られているが、月は毎年4cm地球から遠ざかりつつある。つまり、昔は月は地球にずっと近い場所にあり、より大きく見えていたということである。アポロ計画で持ち帰った月試料の分析と力学計算から、月の起源は、火星くらいの大きさの天体が地球に巨大衝突をして、それら天体の表面が飛び散って再凝集して衛星となったと考えられているが、そのシミュレーションでも、月は昔は今よりずっと地球の近くにいたはずである。それが上述の潮汐作用で距離がだんだん離れていったのである。なので、月と太陽が地球から同じ大きさに見えるのは過去にも未来にもありえず、現在だけの特殊な状態である。そういう時代に人類が生存し、日食を利用して太陽の大気中のヘリウムを発見したり、一般相対論の証明をしたりしているのは偶然とは思えない、人類が科学をするのに最適なタイミングである。そのことの方が、「異星人が月を作った」などという説よりも、ずっと興味深い内容である。

    3.月は地球の衛星としては大きすぎる

     確かに月のようにその中心惑星である地球の4分の1もの大きさを持つ衛星はわれわれの太陽系には他に存在しない。その月の大きさと地球への近さのゆえに、第1項で述べた潮汐作用や、第2項で述べた皆既日食が起こるのである。しかし、太陽系で惑星が成長していく最終段階で、上述のような巨大衝突が起こったことは、月表面のクレーターの年代と大きさの分布や小惑星の大きさと軌道の分布などから明らかであり、月が現在の大きさと位置を持ち、地球が現在の自転速度と軸の傾きを持つことはシミュレーションで可能であることは分かっている。
     微量な元素の同位体の分布などで多少の疑問は残るものの、この巨大衝突説による月と地球の形成は信頼度が高いと言える。われわれの地球と月の存在形態は太陽系において、さらには宇宙において特殊なものである可能性が大きく、「なぜそのように確率的に小さい現象が45億年余り前に起こったのか」ということの方が興味深い。

    4.月の年齢は地球よりも古いのか

     固体の天体の年齢というときは、科学者はその地殻の岩石の年齢のことを言っているのであるが、火山活動や衝突で岩石が溶けてしまったら、その岩石の年齢はゼロに戻ってしまう。つまり、岩石が最後に固まった時からの時間しか分からないのである。月は形成されてから比較的短時間で溶岩は冷えて火山活動は止み、表面の大きなクレーターができた衝突による2次的な溶融以外は、古い岩石がそのまま残っている場所がある。月の裏側に多い高地などは特にそうである。
     一方、地球は月よりも長く溶岩が表面に残り、さらに現在でもマントル対流によって大陸移動が起こっていることからも分かるように、内部での火成活動が続いて地上及び海底の火山の噴火を通して表面に新しい岩石が生成されている。だから、最も古い岩石は地球上でなく月の表面にあるのだ。地球には生命を宿すための元素循環やエネルギー源としてマントル対流は必要であるので、岩石も更新されてしまうが、人類は月の表面の岩石の形態と年代を研究することで、地球だけからは分からない、地球と月の、そして太陽系の惑星形成の歴史を知ることができる事実の方がより興味深い。

    5.月の中心部は空洞である

     中国メディアが報告しているような月の地震波の異常は私は聞いたことがない。アポロ計画で置いてきた地震計と月を周回した人工衛星による重力測定の解析による月内部の推定構造については、例えばJAXAが以下のページで解説している。http://www.miz.nao.ac.jp/rise/content/news/topic_20151217
     第6項で触れる溶岩チューブのような小さな体積の空洞はあるが、人工天体が作るような大規模なものはない。

    6.月は金属の外殻に包まれている

     月には確かにチタン鉄鉱が存在しているが、それは金属の塊があるのではなく、輝石・橄欖石・長石といった普通のケイ酸塩鉱物に富む岩石中に少量含まれているだけであり、金属特有の強度や延性は示さない。また、クレーターがその大きさに比較して浅く見えるのも、大きな衝突では飛び散った表面物質が戻ったり、溶岩が生成されてクレーター内部を埋めたりして、クレーターが浅くなることが分かっている。かぐや探査機が発見した月の竪穴もいくつもあり、内部の溶岩流がつくったトンネル(溶岩チューブ)を隕石の衝突でくりぬいたものである。月の重さや岩石組成を見ても鉄などの金属は地球より少なく、金属の外殻など存在しえない。

     以上、私なりに惑星科学からみた事実・常識に従って解説してみたが、SFファンの読者には残念な内容かもしれない。しかし、上述のように、自然現象でできたはずの月が、地球の環境を生命に適するものにし、さらに人類が科学をするのに適した環境になるように、絶妙なタイミングで月と地球の系が生成・進化していった事実は、単に偶然とは信じられないようである。ID(インテリジェント・デザイン)理論でいう第1原因的な存在による知的設計と働きかけがあったのではと思わせる点である。

    (2018年2月27日記)

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