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    古川 光輝
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    細川 珠生
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    井上 政典
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    伊勢 雅臣
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    河添 恵子
    河添 恵子
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    宮本 惇夫
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    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    無神論者の生年月日はいつ?

     全ての人には生年月日がある。様々な事情から、生年月日が不明なケースも考えられるが、本人が知らなくても誕生日は必ずあるはずだ。それでは無神論者はいつ生まれたのだろうか。読者と共に考えてみたい。

    エデンの園

    「エデンの園」から追放されるアダムとエバ(ジェームズ・ティソ画)

     無神論者は神の存在を信じない人々の総称だが、ここで注意しなければならない点は、神が存在したとしてもそれを信じない人々と、神の存在そのものを信じない人々の2通りがあることだ。「私は神が存在するとは信じない」、「神が存在していても、それは私とは関係がない」、「神の有無論争は意味がない。神は存在しないからだ」など、さまざまな解釈が出てくる。

     人類の始祖アダムとエバは「取って食べてはならない」という神の戒めを破り、「エデンの園」から追放された。長男カインは弟アベルを殺害し、同じように追放された。しかし、「創世記」を読む限り、彼らは神のいない世界に追放されたのではなく、神の愛を直接受け入れることが出来ない世界に追われただけだ。その意味で、アダム家庭もカインも基本的には無神論者の先祖とはいえない。実際、神は追放したカインに対して暖かい言葉を投げかけている。「エデンの園」からの追放は罰であって、神の世界からの決別を意味しないはずだ。

     それでは、神を信じない人生観、世界観がいつ生まれてきたのだろうか。「創造の神」は同時に“妬みの神”(出エジプト記20章)でもある。だから、旧約時代の歴史は常に異教との戦いが続く。その戦いは、神を信じる人々と神を信じない人々の戦いではなく、「神」を信じる人々と「他の神」を信じる人々の戦いだった。だから、積極的な無神論の芽生えは見られない(「『妬む神』を拝する唯一神教の問題点」2014年8月12日参考)。キリスト教時代に入っても異教との戦いは免れなかった。キリスト教の十字軍戦争も「神」と「他の神」の戦いだった。

     イスラム教の創設者ムハンマドが生きていた時代、無神論者は存在しただろうか。異教の神を信じる人は周囲にいただろう。ムハンマドは西暦622年、メッカを追われてメディナに入ってからは戦闘や聖戦を呼びかけているが、無神論者への戦いを呼び掛けたわけではない。ムハンマド時代、敬虔なイスラム教徒は無神論者が存在するとは考えもしなかったのではないか。

     明確な無神論世界の登場はやはり史的雄物論の登場まで待たなければならない。カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスが「共産党宣言」を公表し、唯物主義が台頭し、神は追放され、「宗教はアヘン」として蔑視されていく。人は精神的存在ではなく、高度に発展し、進化した物質的存在と見なされていった。ここに無神論者の産声が聞かれる。その意味で、共産主義思想の登場は歴史的出来事だったわけだ。ちなみに、カール・マルクスの「資本論」第1部が出版されて今年で150年目を迎えた。来年はカール・マルクス生誕200年も控えている。

     神を信じる者から見れば、神の存在を否定する共産主義世界は悪の台頭を意味する。ロナルド・レーガン米大統領(任期1981~89年)は冷戦時代、共産主義世界を「悪の枢軸」と呼び、冷戦時代を「善」と「悪」の最終的闘争と受け取っていたほどだ。

     しかし、共産圏は崩壊していった。フランス作家ミシェル・ウエルベック氏は独週刊誌シュピーゲル(10月21日号)とのインタビューの中で、「信仰はいかなる政治的イデオロギーより人間に強い影響を与える」と述べている。その主張を裏付けるかのように、共産主義イデオロギーは神を信じる宗教の力の前に崩れていく。アルバニアのホッジャ政権は1967年、世界初の「無神論国家」宣言を表明したが、冷戦後、同国で若い世代を中心に急速に宗教熱が広がっているのは決して偶然ではないだろう。

     それでは、神を信じる世界観の勝利で「歴史の終わり」の到来となったのだろうか。現実はそうではない。神を信じる人々にとって状況はひょっとしたら冷戦時代より悪化してきたかもしれない。無神論者は死んでいなかったのだ。

     冷戦終焉後、民主化運動の原動力となった旧東独のドレスデンで福音派教会から信者は去り、ワシントンDCのシンクタンク「ビューリサーチ・センター」の宗教の多様性調査によると、チェコでは無神論者、不可知論者などを含む無宗教の割合が76・4%で、キリスト教文化圏の国で考えられないほど高い。この事実は何を物語っているのか。

     不可知論者が欧米社会で広がっているが、彼らは無神論者ではない。積極的な無神論者にもなれないが、神を信じる敬虔な人にもなれない人々だ。だから、不可知論は積極的な唯物世界観を提示した共産主義を上回る世界観とはなりえない(「欧州社会で広がる『不可知論』」2010年2月2日参考)。

     それでは、共産圏が崩壊した後も、なぜ無神論が存続し、成長し、拡大してきたのだろうか。科学の急速な発展が神を追放したという主張も聞くが、多くの著名な科学者は神を信じている。科学の発展が神を追放したという論理は事実とは一致しない(「大多数の科学者は『神』を信じている」2017年4月7日参考)。

     考えられる唯一の答えは、共産主義は終焉せず、別の形態で存続し、21世紀に入り、潜伏期間を終え、地上に再び顔を出してきたということだ。別の形態とは、「神は死んだ」と宣言したドイツ哲学者フリードリヒ・ニーチェ(1844~1900年)が予言していた虚無主義だ。神学の知識で近代法王の最高峰といわれてきた前ローマ法王べネディクト16世は、「若者たちの間にニヒリズムが広がっている。神やキリストが関与しない世界は空虚と暗黒で満ちている。青年たちは無意識のうちにニヒリズムに冒されている」と警告を発したことがある。ニヒリズムは「死に至る病」だ。

     共産主義の影で潜んできた悪魔は今、最後の戦いに挑んでいるのではないか。虚無主義がその武器だ。現代人は今、「神」も「悪」も意味を失った虚無な世界に立たされている。

     最後に、米国のサスペンス映画「ユージュアル・サスぺクツ」(1995年作)の最後の場面で俳優ケヴィン・スペイシーが演じたヴァーバル・キントが語る有名な台詞を紹介する(スペイシーはこの役でアカデミー助演男優賞を得ている)。

    “The greatest trick the devil ever pulled was convincing the world he did not exist”
    (悪魔が演じた最大のトリックは自身(悪魔)が存在しないことを世界に信じさせたことだ)

    (ウィーン在住)

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