ワシントン・タイムズ・ジャパン

ワクチン接種率EU最下位国の事情

 ワクチン接種率で一喜一憂することはあまり意味がないが、なぜポルトガルのワクチン接種率が84%を超える一方、ブルガリアでは20%弱と低いのか、やはり考えざるを得ない。ポルトガルもブルガリアも欧州連合(EU)加盟国だ。ブリュッセルから必要なワクチンは供給されている。ただ、ポルトガルではほとんどの国民がワクチン接種する一方、ブルガリアでは5人に1人しかワクチン接種をしていないのだ。

▲ブルガリアの新規感染者数の動向グラフ(ブルガリア政府運営新型コロナウイルスポータルサイトから 在ブルガリア日本大使館公式サイトから)

▲ブルガリアの新規感染者数の動向グラフ(ブルガリア政府運営新型コロナウイルスポータルサイトから 在ブルガリア日本大使館公式サイトから)

 ブルガリアでは国民は予約しなくてもどこでも希望すればワクチン接種できるし、どのワクチンを接種するかも選ぶことができる。オーストリアでは今年4月から5月にかけ、副作用が多く報告されていた英製薬大手のワクチンを避け、米ファイザー・ビオンテック社のワクチンを希望し、難しい場合、予約をキャンセルして希望のワクチンの接種を受けれるまで待つ国民もいた。

 しかし、ブルガリアでは国民は欧州で認知された全てのワクチンからどのワクチンを受けるかを選ぶことが出来る。にもかかわらず、ブルガリアのワクチン接種率は20%前後とEU最下位なのだ。ジャーナリストではなくても「なぜか」という疑問を持たざるを得ない。

 興味深い点は、ブルガリアでは医師の約70%がワクチン接種に反対しているという。首都ソフィアのコビッド病院院長で感染症の教授が、予防接種の有効性について公に疑問を投げかけたというのだ。医師は本来、患者にワクチンの接種を勧めるものと考えていたが、ブルガリアではそうではないのだ。その結果と言ったらおかしいが、医師が勧めないワクチンを接種する国民は多くいないということになる。

 8月中旬の段階でワクチンを2回接種した国民は100万人強である。全国民の15・5%だ。接種場所は公園、学校、会社内、ショッピングセンターといたる所にあるが、国民をワクチン接種に導くことはできないでいる。

 同国保健省関係者は、「ワクチンを接種するか否かは理性的な理由より感情的な理由が決定的だ。わが国の医師たちの中では反ワクチン感情が他の欧州の諸国より強い」と弁明する。その上、ソーシャルネットワークはさまざまな陰謀説を流し、国民はそれを安易に信じてしまうという。

 Covid-19に関する偽情報や陰謀説を支持する傾向と政府への不信感の間には直接的な関連があるという分析も聞かれる。多くの医師が予防接種に反対しているなか、保健当局のワクチン接種への啓蒙キャンペーンも説得力がないわけだ。

 EUの保健衛生担当のキリヤキデス委員は1日、ウィーンの予防接種センターを訪れ、「ワクチンに対する誤った情報と戦うために、もっと多くのことをしなければならない」と述べていた。

 EU内でもワクチン接種率では相違が出てきている。ポルトガルでは8月初めから9月末までに59%から85%に広がり、スペインでも同期間、58%から78%に、デンマークでも75%と20%増、スウェーデンは42%から65%と上がっている一方、ハンガリーは8月初めは57%。そして9月末には59%とほとんど伸びず、ルーマニアは30%以下、ブルガリアは20%以下といった具合だ。

 9月中旬から新学期が始まった。ブルガリアでは学校教師のワクチン接種率は約30%と低い。新しい学期が始まれば、感染が拡大する危険性が懸念される。教師のワクチン接種義務を施行すべきだという声もあるが、ブルガリアではワクチン接種義務に対しては国民の抵抗が強い。ちなみに、ラジオ・ブルガリアが9月21日報じたところによると、ブルガリアのワクチンの反対者には、都市部に住む25~39歳の女性が多いという。

 ところで、ブルガリアでは今年に入り、4月と7月に既に2回議会選が行われたが、安定した新政権が組閣できないために11月14日に3回目の選挙が実施にされることになっている。ブルガリアの政治情勢は混乱し、政党間の戦いが絶えない。パンデミック対策では感染病の専門的対応ではなく、政治的、政党的な利害から決定されてきた。だから、コロナウイルスへの啓蒙活動は中途半端となり、一環したものではなくなる。政治家の汚職、腐敗は絶えず、国民の政治への不信感が強いことも、国民のワクチン接種への懐疑心を助長させている。

 以上、まとめる。ブルガリアでワクチン接種率が低いのは、①医師たちにワクチン接種懐疑者が多いこと、②ワクチン接種に対して懐疑的なソーシャル・ネットワークの影響、③ブルガリア政治の混乱と政治家の汚職・腐敗問題、国民の政治家への不信があることだ。

 ブルガリアで35年間君臨した独裁者トドフ・ジフコフの共産党政権崩壊直後、当方が1990年11月、民主化後最初の民主選出大統領のジェリュ・ジェレフ大統領と会見するためにソフィア入りした時、街は停電だった。それでもソフィア市民の表情は明るかったことを思い出す。そのブルガリアで政情は不安定であり、混乱が続いている。そして国民はワクチン接種を拒否していると聞くと、やはり心痛い。

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