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オーストリア第2都市で共産党市長誕生

 9月26日は「選挙の日」となった。ドイツ連邦議会選(下院)の投開票が行われたほか、スイスでは同性婚合法化を問う国民投票、オーストリアのオーバーエステライヒ州議会選が実施された。それぞれの投票結果は既に報じられているのでここでは省略する。

▲グラーツ市共産党を第1党に躍進させたカール党首(左)、市民の声を聞く=オーストリア共産党公式サイトから

▲グラーツ市共産党を第1党に躍進させたカール党首(左)、市民の声を聞く=オーストリア共産党公式サイトから

 ところで、上記の選挙のほか26日にはもう一つの投票が行われた。その選挙結果が世界的なニュースとして発信された。オーストリア第2の都市グラーツ(人口約25万人)の市議会選で共産党が第1党となり、中道右派政党「国民党」の現市長に代わって市長のポストを手にしたのだ。少なくとも、オーストリアにとって初めのことだ。

 オーストリアではグラーツ市は共産党が議席を有する唯一の都市だが、第1党に大躍進し、市長のポストを獲得するとは誰も考えていなかった。文字通り、青天の霹靂(へきれき)だ。思想的に共産主義は間違いと考えている当方はドイツ連邦議会選の結果より驚いてしまった。

 当方は1980年、約半年間、グラーツに住んでいた。シュタイアーマルク州の州都であり、州民はシュタイアーリッシュと呼ばれる癖のあるドイツ語を話す。そこで半年間、ドイツ語を初めて学び出した当方は今なおその方言から抜け出せていない。グラーツ市は“美し南の都市”だが、独語の学習としては決して理想的な都市ではない。ちなみに、グラーツ生まれで日本でも良く知られた人物としては、俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏がいる。

 テーマに戻る。冷戦時代、東西両欧州の架け橋的な地位にあったオーストリアではソ連・東欧共産圏から200万人以上の亡命者が殺到してきた。国民は共産政権が如何に非人道的な政権であるかを思想ではなく、実生活を通じて肌で感じてきた。隣国の「ハンガリー動乱」(1956年)や「プラハの春」(1968年)を身近に目撃してきたオーストリア国民は共産党には警戒心が強い。だから、共産党が連邦レベルで議席を獲得するチャンスはこれまでなかった。唯一、例外はグラーツだ。同党は過去16年間、市議会で議席を獲得してきた、その共産党は今回第1党に大躍進したのだ。

 先ず、投票結果を見る。与党国民党は得票率25・7%、社会民主党9・6%、極右政党「自由党」10・9%、緑の党17・3%、共産党28・9%だ。共産党は前回比で8・6%得票率を伸ばした。グラーツのシーグフリード・ナーグル市長(国民党)は投票日の26日、得票率12・1%減となった責任をとって辞任を表明した。それに代わって、グラーツ市共産党のエルケ・カール(Elke Kahr)党首が市長のポストの座に就く可能性が出てきた。

 カール党首は2013年以後、その政治活動が注目されてきた。同党の社会活動は良く知られ、勤勉、謙虚をモットーに、給料の一部を困窮者に献金するなど、救済活動を積極的に行ってきた。同党は弱者救済としてソーシャルカードや預金フォンドの設置などを主張してきた。連邦レベルの選挙では保守系を支持する有権者が「思想が問題ではない。政党としての活動内容だ。市議会選では共産党に投票する」と語っていたのは印象的だった。

 カール党首は「誠実で、気さくで、献身的で、社会および住宅問題において有能な政治家」と市民には好意的に受け取られてきた。最近はグラーツの交通状況を改善するために努力している。住宅政策では数十年にわたって共産党が政策的にリードしてきた。

 ただし、グラーツ共産党の成功は他の州選挙、市議会選挙にインパクトを与えることはなかった。前回の国民議会選挙では、共産党は0・7%と1%にも届かなかった。ウィーン市議会選では他の同盟と連携して2%を獲得したが、チロル州やフォアアールベルク州では共産党は選挙に参加していない。

 オーストリアの著名な政治アドバイザーのトーマス・ホーファー氏は、「共産党の躍進は思想の問題ではない。共産党の躍進はあくまでも地域的現象だ。ソーシャルファンドなどは典型的な左派のポピュリズムで新しくはない。ただし、グラーツ共産党はそれらを倦むことなく実践して市民から信頼を勝ち得てきた」と冷静に受け取っている(「『共産党』を誤解している野党議員へ」2019年12月30日参考)。

 政党である以上、政治信条、世界観、経済・外交について明確な政策が問われる。国民は政党の良し悪しを公約ではなく、実践を見て判断する。公約を乱発するだけで、実行力の乏しい政治家を見て、多くの国民は政治に失望してきた。オーストリア南部シュタイアーマルク州の州都グラーツの共産党の飛躍は政治に何が大切かを改めて明らかにした。共産党とはいえ、その点は公平に評価すべきだろう。

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