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人間社会の「異変」に戸惑う動物たち

 ウィーン市は東京都と同じように23区に分けられている。当方は外国人労働者が多く住む16区に住んでいる。早朝には鳥たちの鳴き声が響き、カラスが屋根の上から遠くを眺めている。毎朝見られる風景だが、路上の鳩たちが新型コロナウイルスの影響を受け、飢餓に苦しんでいる、という動物愛護グループの報告が先月末、報じられた。     

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新型コロナ対策で経済救済法案に署名するトランプ米大統領(2020年3月27日、ホワイトハウス公式サイトから)

 街の鳩たちは毎朝、年金生活を送る老人たちからパンくずや穀物をもらう生活に慣れてきたが、新型コロナウイルスが広がり、高齢者は感染の危険が高いため外出を控えるようになって、路上で鳩たちに餌を与える人がいなくなった。

 その結果、街の鳩たちは空腹に悩まされ、死んでいくのだろう。動物愛護グループは「街の衛生上にも良くないことだ」とし、市当局に街の鳩たちの餌場を作るべきだと主張していた。

 鳩やカラスは本来、自由に空を飛び、餌を見つけて食べる。駅前や路上で長い間、人間が与えるエサで生きてきた鳩たちにとっては野生の生活に戻れ、といっても簡単ではないだろう。老人の餌を待って、人気のない道の上で腹を空かして死んでしまう鳩たちが出てくる。

 英国のウェールズでは野原に住んでいたヤギたちが、人間が外を出歩かなくなった住宅地に入り、群れを成して闊歩するシーンが動画に載せられていた。外出禁止路上は無人状況。野原に住んでいたヤギたちはその異変に気が付き、安心して誰もいない街に入ってくるのだろう。

 犬は一日最低でも2回、散歩しなければならない。新型コロナ時代でも飼い主は犬の散歩のために早朝、人が少ない時間帯に犬を散歩に連れていく。犬も落ち着いて散歩する時間はない。賢い犬なら、「人間世界は何か変だ」と感じ、落ち着かなくなる。飼い主の不安が犬にも伝染するのだ。

 街の鳩や野生のヤギ、そして犬たちも社会、街の異変に気が付き出した。新型コロナウイルスは人間社会だけではなく、動物界にも不安と動揺を与え出している。

 人は外で働き、子供は学校で学び、スポーツを楽しむ。社会は定期的に様々なイベントを挙行し、交流する。それが人間社会の基本的な姿だったが、今は多くの労働者が仕事を失い、自宅で仕事をこなすことが出来る人はラッキーだ。子供は学校には行かず、学校から送信された教材を自宅で学ぶ。友達とスポーツを楽しむこともできない。1杯のコーヒーを小さな喫茶店で楽しんできた人は自宅でコーヒーを作って飲む。働き、学び、外気の下で自然を楽しみ、家族や友人と夏季休暇を楽しむ、といったごく普通の生活は贅沢な生活のように思われてくる。多くの人々の関心はただ一つ、「いつ新型コロナウイルスが去っていくか」、「いつ昔のような生活に戻れるか」だ。

 新型コロナを治癒できる治療薬やワクチンが出来ることを多くの人々は願っているが、1人のウイルス専門家は、「新型コロナをやっつけることは出来ないだろう。せいぜい、新型コロナウイルスと共存するだけだ」と少々悲観的な見通しを語っていた。

 フランスのマクロン大統領は先月16日夜の国民向け演説の中で、「われわれは戦争状況下にいる」と述べ、国民に外出制限などの緊急対策への理解を求めていたが、著名なジャーナリスト、カール・ペーター・シュヴァルツ氏はオーストリア代表紙プレッセ(4月1日)のコラム欄で、「戦争ではない、人類とウイルス間の生存を賭けた戦いだ」と述べている。

 欧州では20世紀に入って、スペインかぜで5000万人から最大1億人が亡くなった。第1次世界大戦での死者数は1700万人、第2次大戦では約6000万人だったから、スペインかぜの死者数は世界大戦時より多くの犠牲者が出たわけだ。彼らの多くは1918年9月中旬から12月中旬にかけて死んでいった。

 そして新型コロナの場合もそのスペインかぜのウイルスと酷似してきたという。前者は当初は単なる風邪と受け取られたが、時間の経過とともに感染テンポを速め、次々と感染者が亡くなっていった。同じことが、中国武漢市から発生した新型コロナウイルスでもいえる。感染力を強め、その致死率を高めてきているからだ。

 様々なウイルスが生まれ、人類はその度に多くの犠牲を払いながら、それらを克服してきた。今回のような新型コロナウイルスの出現は数年前から科学者や知識人が警告してきた。マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ氏は5年前、人類は危険な最悪ウイルスの出現の前に準備しておかなければならない、と警告を発してきた1人だ。彼は今回、自身の慈善団体「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」を通じて新型コロナを治療するワクチン製造のために巨額の資金を提供している。

 新型コロナは今、欧州と米国にその牙を向け、暴れ回っている。それに対し、国境を閉鎖し、外出禁止、スポーツや集会、イベント開催禁止、学校休校などを実行してきた。

 オーストリアのネーハマー内相は、「国民の95%は政府の要請を忠実に守っているが、5%の国民は依然、新型コロナの恐ろしさを認識していない」と警告する。国民の5%が外出し、パーティを開くなどこれまで通りの生活スタイルを続ければ、新型コロナの感染は短期間に全世界に広がる。現状はそのことを端的に証明している。

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