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    河添 恵子
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    宮本 惇夫
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    中村 仁
    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    「鉄のカーテン」と「移民防止の壁」

     1989年6月27日、冷戦時代の終焉直前、オーストリアとハンガリー間の国境線に敷かれていた鉄条網が切断された。ハンガリー共産党政権(社会主義労働者党)からはホルン外相(当時、後に首相)、オーストリアからはモック外相(当時、故人)が参加して、両国間の鉄条網をカットする式典が行われた。当方は現地で歴史的な瞬間を目撃した。

    300

    オーストリアとハンガリー間の“鉄のカーテン”を切断するホルン・ハンガリー外相(当時、左)とモック・オーストリア外相(当時、右)=1989年6月27日、両国国境で撮影

     両国間に設置されていた“鉄のカーテン”が切断されたことで、旧東独から多くの国民がオーストリア経由で旧西独へ亡命してきた。ベルリンの壁はその後、崩壊したことはまだ記憶に新しい。

     “鉄のカーテン”の切断は東西に分裂していた欧州が再び統合する時代を告げるイベントとなった。旧ソ連共産圏は次々と崩壊し、ソ連も91年には連邦が崩壊したことで冷戦時代は終焉を告げたわけだ。

     あれからまもなく30年目を迎える。共産主義陣営と民主主義陣営を分断していた“鉄のカーテン”は消滅し、欧州ではシェンゲン協定で国境管理も撤廃され、自由に移動できる時代が到来した。「これから欧州は大統合に向かう時代圏に入る」といった夢が政治家たちの間でも飛び出してきた矢先、2015年秋、中東・北アフリカから大量の難民・移民が欧州に殺到してきた。欧州の盟主メルケル独首相は難民歓迎政策で難民を無条件に収容していったが、ドイツ国内でイスラム系難民の殺到による様々な軋轢、紛争が生じ、イスラム教の北上を恐れる欧州では民族主義的な政治勢力が台頭し、大衆迎合(ポピュリズム)、極右勢力が誕生してきたわけだ。

     オーストリアのクルツ外相(当時、前首相)は対バルカン国境線の閉鎖を主張して欧州政界で顔を売った。誰もが考えていたことだが、口に出すのを恐れていたことを30歳にもならない若い政治家が主張し、それを実行していったわけだ。ハンガリーでは中道右派のオルバン政権がいち早く、国境線の警備強化に乗り出し、「欧州のイスラム化」を阻止すると豪語し、欧州連合(EU)のブリュッセルが提示した難民受け入れ枠を拒否した。

     歴史は面白い展開をする。オーストリアとハンガリーが30年前、“鉄のカーテン”の切断、東西欧州の統合時代を告げる道案内役を果たしたが、その両国が2015年以降、今度は“鉄のカーテン”ではなく、移民・難民の殺到を防止する国境線の強化、鉄条網をいち早く設置していったわけだ。静観してきた欧州でも次々とクルツ氏の強硬政策を実行、欧州では“オルバン化”という言葉が市民権を獲得していった。

     第45代大統領に就任したトランプ米大統領は対メキシコからの不法難民の防止のため壁の建設を公約に掲げ、具体的に一部建設に入っている。欧州だけではなく、米国でも今、新たな壁の時代を迎えているわけだ。

     ちなみに、 オルバン首相は2016年10月17日、ドイツ南部バイエルン州の州議会でハンガリー動乱60周年の記念講演をし、「1989年は共産政権時代から民主化へ向かう転換期だった。ハンガリーは旧東独国民のためにその国境線を開放しなければならなかった。そして昨年と今年、ハンガリーは国境を閉鎖せざるを得なくなった。なぜなら、自由を守らなければならなかったからだ。両者はコインの両面だ」と語った。簡単にいえば、前者は“自由を得る”ため、後者は“自由を守る”ためだったというわけだ。

     ローマ法王フランシスコは、「いかなる壁も建設すべきではない。壁を建設する者はキリスト者ではない」と主張してきた(「トランプ氏とローマ法王の会見」2017年5月24日参考)。そのローマ・カトリック教会の総本山バチカン法王庁は聖職者の性犯罪を久しく沈黙という壁で隠蔽してきた。

    「壁」は本来、願わない存在の闖入を阻止するために設置する。そして如何なる時代にも様々な「壁」は存在し続けた。「精神的な壁」から「物理的な壁」まで多種多様の壁がある。

     それでは「壁なき世界」は考えられるだろうか。単なるユートピアだろうか。その問いに答える前に、私たちは壁なき世界、社会、国家を願っているのかを自問しなければならないだろう。もし願っているのならば、あらゆる手段を行使して実現するために努力しなければならない。もし願わないのなら、私たちは“壁の中の住人”として生きていくことを潔しとすべきだ。

    (ウィーン在住)

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