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    伊勢 雅臣
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    河添 恵子
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    宮本 惇夫
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    中村 仁
    元全国紙経済記者
    石平
    石平
    評論家

    米朝の「宣言文」より「制裁」の維持を

     シンガポールで開催された史上初の米朝首脳会談は終わった。トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長のサミット会議に対する評価はもう一つだ。首脳会談の主要テーマだった北朝鮮の非核化について、両首脳が署名した共同宣言文に具体的なロードマップが記述されていなかったので当然かもしれない。

    800

    米朝首脳会談で散歩する金正恩委員長とトランプ大統領 2018年6月12日、シンガポール、CNNの中継から

     しかし、落ち着いて考えてみれば、数時間の会議で約70年間ご無沙汰していた相手を説得することなど、たとえディ―ルの名手を誇るトランプ大統領にとっても至難の業だろう。相手は34歳とはいえ、3代続く独裁国の最高指導者だ。次の選挙日程が頭から離れないトランプ氏とは置かれている状況が全く異なる。

     そのうえ、短文の名手、ツイッターのユーザー、トランプ氏は生来、長文や複雑な外交文書を苦手としている。宣言文の文字を吟味し、それがどのような関連性があるか、といったことに余り関心がない。

     ただし、事はトランプ氏の将来ではなく、朝鮮半島、ひいてはアジア全般に影響を与える北の非核化問題だ。どうしても宣言文に欠けていた部分が気になるのは仕方がないだろう。宣言文には「朝鮮半島の非核化」と明記されているが、肝心の「北の非核化」はどうしたのか、トランプ政権が繰り返し主張してきた「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)は明記されていない。後者は致命的な欠如だ。その一方、「朝鮮半島の体制保証」では在韓米軍の撤退から米韓軍事演習の中止まで広範囲の内容が網羅されている、といった具合だ。

     それでもトランプ氏はその共同宣言に署名した。側近のボルトン大統領補佐官はどこにいたのか。トランプ氏が11月の中間選挙、次期大統領選の再選などに心が奪われていることを知っていたはずだ。

     宣言文の問題点を挙げればまだまだあるが、敵対関係が70年余り続いてきた両国のトップが数時間とはいえ、一緒のテーブルを囲み、協議し、ワーキングランチも共にしたのだ。初めての会合としてはこれで十分だ。問題は次のステップだ。 トランプ氏の説明によると、宣言文で明記されなかった北の非核化プロセスは、米朝間の実務協議で迅速に開始される運びというから、その進展に期待したい。

     北側は宣言文の内容でポイントを稼いだが、そんなことは大きな問題ではない。米政権が対北制裁を維持し続けている限り、北は時間稼ぎはできないし、宣言文に違反することもできない。トランプ氏は「史上最強の制裁」に乗り出すかもしれない。ひょっとしたら、「宣言文を無効にするように関係者に通達した」というツイッターを金正恩氏宛てに配信するかもしれない。交渉相手がトランプ氏である限り、北の有利は瞬間に消滅してしまうのだ。繰り返すが、宣言文の文字ではなく、北の非核化が実行されるか否が重要なのだ。トランプ氏がその中心ポイントから逸脱しないように安倍晋三首相はアドバイスを忘れてはならないだろう。

     心配もある。中国が米朝首脳の宣言文を振りかざし、ひそかに対北制裁を解除するかもしれない。中国が対北制裁を緩めるような動きがあれば、米国は声を大にして、北の非核化の進展具合を指摘し、制裁を継続すべきだと主張すべきだ。そして中国の違法行為を国際社会で訴えるべきだ。

     トランプ氏はクリントン元大統領でもオバマ前大統領でもない。国際条約や合意書に余り重きを置かない稀有な政治家だ。気候変動対策の国際的取り決め「パリ協定」や「イラン核合意」からの離脱、最近では主要国首脳会談(G7)の首脳コミュニケの無効通達を思い出すだけで十分だろう。トランプ氏の外交ルールを無視したやり方は通常の場合、マイナスだが、北との交渉では大きな武器となる。金正恩氏は、トランプ氏の“次の一手”が読めない限り、非核化を中断すれば、トマホークが寧辺核関連施設を目掛けて飛んでくる恐れから逃れることができないのだ。

     金正恩氏が今年に入って対話路線を取ってきたが、韓国の文在寅大統領の南北融和政策の成果ではなく、米国らの強力な対北制裁の結果だ。その点、米朝首脳会談後も変わらない。北が非核化プロセスで時間稼ぎをすれば、それでもいいだろう。「巨人軍は永久に不滅です」と語った読売ジャイアンツの英雄・長嶋茂雄選手の引退時の言葉に倣って叫ぼう。「金正恩氏、制裁は永久です」と。

    (ウィーン在住)

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