ワシントン・タイムズ・ジャパン

一触即発の米朝関係で〝漁夫の利〟を得るプーチン大統領

 習近平体制が船出して5年。権力掌握と勢力拡大を目指す習近平国家主席は、盟友の王岐山・党中央規律検査委員会書記(序列6位)を汚れ役に、「トラもハエもたたく」の掛け声で、宿敵・江沢民派の大物を次々と刑務所や鬼籍へ送り込む〝死闘〟を繰り広げてきた。昨年10月の共産党中央委員会総会において、習主席は鄧小平や江沢民と並ぶ「核心」の地位も得たが、依然として「権力の掌握ができない」ジレンマを抱えている。習政権が掲げた夢は「中華民族の偉大なる復興」だが、習主席の夢は「江沢民派の無力化」であり、いまだ道半ばだからだ。

王岐山・党中央規律検査委員会書記(序列6位)

王岐山・党中央規律検査委員会書記(序列6位)


 習主席のジレンマ・不安は、それだけではない。

 4月の米中首脳会談で、習主席は北朝鮮の「核・ミサイル」対応をめぐり、トランプ大統領から「100日間の猶予」を取り付けたが、7月中旬までに〝宿題〟をこなせなかった。なぜなら北朝鮮と長年、密接なのは江沢民派、とりわけ吉林幇とその牙城、旧瀋陽軍区(北部戦区)であり、習近平は中央軍事委員会主席の立場にありながら、未だ〝敵陣〟だからだ。旧瀋陽軍区は、江沢民主席の90年代より、米国や日本の最先端技術を盗み取り、金王朝と連携して「核・ミサイル開発」を進め、資源や武器、麻薬など北朝鮮利権を掌握したとされる。

 しかも、習近平は国家主席に就任後、金王恩労働党委員長と面談すらしていない。それどころか北朝鮮は5月、「中国が中朝関係を害している」と初めて名指しで批判した。これは建国以来の「兄弟国」中国に対してではなく、習近平や習一派への罵倒と読み取るべきだ。昨年9月、杭州で開催されたG20サミットの閉幕式、今年5月の「一帯一路」国際会議、9月に厦門で開催されたBRICS首脳会議と、習主席の晴れ舞台に金正恩はミサイル発射や核実験を繰り返し、メンツをつぶしていることからも、両者の関係が最悪であることが分かる。

 こうした中で、ロシアのプーチン大統領の存在感が際立っている。1961年、ソビエト連邦と北朝鮮は軍事同盟の性格を持つ「ソ朝友好協力相互援助条約」を締結するなど、両国は古くから特別な関係にある。また、北朝鮮のミサイルは旧ソ連の技術が基盤とされる。北朝鮮が「人工衛星の打ち上げ」と称して、事実上の中距離弾道ミサイルを発射した2年後の2000年、大統領に就任したプーチンはロシアの最高指導者として初めて平壌を訪れ、金正恩の父、金正日総書記から熱烈な歓迎を受けた。訪朝後、ロシア下院は「露朝友好善隣協力条約」を批准。金総書記は2001年以降、公式・非公式で何度も訪露するなどプーチンとの関係強化に邁進してきた。

 そのプーチン大統領との会談のために、チャイナセブン(中央政治局常務委員7人)のうち、4月には江一派で吉林幇のドン、張徳江・全人代常務委員会委員長(序列3位)が訪露、同月に江一派の張高麗副首相(序列7位)も訪露し、習主席も7月に2泊3日でモスクワ入りし、プーチン大統領と複数回、会談した。これほど短期間に、中国共産党最高指導部による「プーチン詣で」が続いた背景には、北朝鮮問題があることは火を見るより明らかだ。

張徳江・全人代常務委員会委員長(序列3位)

張徳江・全人代常務委員会委員長(序列3位)

 習主席のモスクワ訪問中にも、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。訪露にあたり習主席は「110億ドル(約1兆2170億円)規模の経済支援」という手土産を持参したが、これは北朝鮮をコントロールできない苦境を物語っている。これに対し、プーチン大統領はロシア最高位の「聖アンドレイ勲章」を習近平に授与した。習近平を手下にしたってことなのか? ロシアはすでに、北朝鮮を抱き込んでいると考えられる。

 つまり習主席としては、北朝鮮のミサイルの矛先が北京・中南海(中国共産党中枢)に向かないよう、プーチン大統領との「特別な関係」に注力しながら、江沢民派の〝無力化工作〟に心血を注ぐしかない。北朝鮮の貨客船「万景峰号」は、北朝鮮北東部・羅津とロシア極東ウラジオストク間を運航している。真偽は定かでないが、プーチン大統領が送り込んだ旧KGBの精鋭部隊が、金正恩の警護や北朝鮮人民軍の訓練にあたっているという情報もある。米朝関係がヒートアップする中、〝漁夫の利〟を得るのは間違いなくプーチンである。

 ただ、習一派への援護射撃は他にもある。北朝鮮の6回目の核実験を受けての、国連安保理制裁である。中国商務部(省)は決議の採択日から120日以内に、北朝鮮の個人・団体が中国に設立した合弁企業や全額出資企業の閉鎖を命じる通知を出した。中国企業が北朝鮮の個人・団体と共に、中国以外で設立した合弁企業も閉鎖対象とした。これは事実上、東北三省(遼寧省・吉林省・黒竜江省)と山東省ほか香港・マカオ、米国などを舞台に、江沢民派が牛耳ってきた北朝鮮利権の無力化とも言える。

 さて、中国の最高指導部が大幅に入れ替わる5年に1度の党大会(第19回)が、10月18日に行なわれる予定だ。『読売新聞』(8月24日朝刊)が世界のメディアに先駆け、チャイナセブンの新メンバーとその役職を報じ、『朝日新聞』(9月21日デジタル)は、江沢民派の粛清に心血を注いできた王岐山・党中央規律検査委員会書記について、関係筋の話として「10月の党大会での退任が決まった」「最高指導部からも退くことが濃厚」などと報じている。

 一方、日頃から中国のディープインサイドを(ガセも事実も)暴いてきたNYや香港、台湾にポータルサイトを置く、共産党と距離を置く中国メディアからは、新チャイナセブンについて断定的に報じる内容はこれまで見あたらない。とりわけ王岐山の去就については、「新設のポジションで残留」との内容も目立つ。これら中国メディアの真意として、「本丸の江沢民ファミリーを是が非でも闇に葬れ」と切望しているためか? 一部からは「江沢民ファミリーが自由に過ごせる時間は残り少ない」と、Xデーが間近であることを暗に記す内容も噴出している。

曽慶紅・元国家主席

曽慶紅・元国家主席

 1989年6月の天安門事件以降から30年余り続いてきた〝江沢民王朝〟も、習政権の2期目の船出の頃には終焉の時を迎えるのか? ただ、現チャイナセブンにも19回党大会で退任予定とはいえ、江沢民派が3名いる。その他、世界に情報ネットワークを構築した別名〝江派2号人物〟曽慶紅・元国家主席やその手足が、海外から反撃を繰り返してきた。
中国共産党の権力闘争に終わりはない。いわば〝無限地獄〟なのだ。 

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