ワシントン・タイムズ・ジャパン

「ヒノテル往復ビンタ」の真相を捻じ曲げる週刊誌の報じ方

 世界的ジャズ・トランぺット奏者のヒノテルこと日野皓正さんが、中学生への“体罰”を行ったと問題視され、賛否両論が巻き起こっています。

 この“体罰”問題が世間を騒がせるきっかけになったのが、週刊新潮の報道。日野さんが約600人の観客を前に、中学生に手をあげている映像が公開されました。そして新潮だけでなく、週刊文春までも同じ映像を公開しました。ライバル誌の2誌が同じ動画を公開し、同じネタで記事を掲載したことでより反響が増すことに。ワイドショーでも、記者が日野さんを囲み取材している様子が報道されていました。世界的なトランぺッターが何故、大勢の観客の前で手をあげたのか、果たして日野さんのしたことは“体罰”だと問題視されることなのか、調べてみました。

●往復ビンタの真相
 そもそも何故、日野さんが中学生と接点があるのかというと、世田谷区の教育委員会が主催している「才能の芽を育てる体験学習」として、同区立中学校の生徒達を公募で集め、日野さんやジャズ界で活躍するプロミュージシャンが指導するという取り組みがあったからなのです。2005年から続いており、今年で13回目を迎えていました。5月から指導が始まり、約4カ月間の練習を行って、その成果を発表するコンサートを8月に開催しました。コンサートは有料で、一般料金が4500円、4歳から高校生が2250円となっていました。

 毎年、一流のミュージシャンに指導された中学生達のジャズビッグバンド、通称「ドリバン」の演奏を聴こうと多くの観客が来場します。今年も約600人が集まり、演奏に聞き惚れていました。全ての演目が終了した後、アンコールが沸き起こり、再び演奏が始まります。中学生達それぞれのソロパートを演奏していくのですが、件の中学生の番でハプニングが発生しました。

 新潮が公開した動画では、ここからの日野さんの言動が映し出されています。演奏を続ける中学生の背後に日野さんが回り込み、スティックを取り上げ、放り投げます。何かの演出か? 面白いハプニングが起こったのか?と思い、観客からは笑い声が起こります。スティックを取り上げられた中学生は、すぐに素手で演奏を続け、やっぱり演出なのかと観客の誰もが思ったことでしょう。また笑いが起きます。

 しかし、その後の日野さんの言動でこれは演出ではないと観客たちはすぐに気付くことに。演奏を続ける中学生の髪を鷲掴みにし、「帰れ!」と一喝。「ここはお前だけの演奏の場じゃない」と言って、左右の頬を手で叩きました。中学生が睨んだのか、「なんだその顔は」と日野さんが叱ったところで動画は暗転。

 これだけを見ると、あの世界のヒノテルが体罰をしたのかと誰もが思ってしまうでしょう。実際、初めて見た時はやりすぎではないかと思ってしまいました。しかし、実際にこの演奏を聞いた人が投稿したツイッターでは、新潮が切り取った動画だけでは分からない状況が判明しました。この中学生がドラムのソロを演奏しながら、片手で他の中学生たちに参加しろと煽り、困惑しながらもそれぞれが音を出していって参加していきました。ビッグバンドなので大音量のフリージャズのようにその場は盛り上がったのですが、収拾着地できず。他の中学生は演奏を止めたものの、例の中学生だけがソロを叩き続け、それを日野さんが止めに入ったということだったようです。

 このニュースを報道していた番組でも、日野さんが一方的に暴力を振るったのではなく、演奏を止めなかった中学生のことも伝えて、事の発端を明かしていました。そしてこの中学生の親も自分の息子が悪かったと言っており、中学生自身も自分の非を認めて、日野さんに謝罪しに行ったとのことです。また、日野さん自身も往復ビンタではなく軽く頬を叩いた程度だと言いながら、やりすぎたところはあると囲み取材の際に話していました。本人たちの間ではこの事に関して決着がついており、中学生自身も、また日野さんに指導してもらいたい、今回の事でこの体験学習が終わってほしくない、と話しています。それでも世間がここまで騒ぐのは、やはりマスコミの報道の戦略にあるのでしょう。

●様々な方面から物事を判断すべき時代
 情報をすべて出さず、一部を切り取って、そこだけに焦点を合わせて一方的な意見だけを浮き彫りにさせることが新潮などのマスコミのやり方です。今回の件も、日野さんがあたかも自分の怒りをぶつけるために体罰をしたかのような報道をして、体罰の部分だけを煽っています。件の中学生はドラムが天才的に上手く、日野さんも目をかけていました。しかし、態度が良くなかったらしく、練習中も厳しく日野さんが指導することが多々あったそうです。まだまだ世間や社会の常識を知らない中学生に、音楽の指導だけでなく、社会に出てもっと自分の音楽センスを発揮していくためにも、大人として成長していくための指導をしていたのでしょう。それでも本番で我を失って自分の演奏に陶酔していた中学生に、目を覚ませと「喝」を入れるため、あのようなことをせざるを得なかったということが事実です。

 ただ、ここまで大きな問題となったのが、この演奏会の主催が教育委員会だということ。教師の体罰が問題になっているご時世で、「体罰だ」という報道がなされたことで世間を騒がせることになってしまったのでした。とはいえ、実際に現場にいた人の感想では往復ビンタをしているようには見えず、ただ頬をペチペチ叩いていたと言っている人もいたり、いつまでも演奏を止めない中学生が見ていて嫌だったという意見もありました。

 4カ月間頑張ってきた中学生達の発表の場で、一人でも自分勝手なことをすれば場が乱れ、せっかくのお披露目が台無しになることは確かに大問題です。そのため指導は必要でしょう。実際に件の中学生は反省しています。観客の前でそのような指導をせざるを得なかった日野さんのことを考えると、問題視するべきことではないでしょう。

 これから世界で活躍できる才能のある中学生をしっかりと公の場でもいいから指導しなければという教師としての意思や、せっかくお金を払って聞きに来ている観客に対しての申し訳なさや、一生懸命頑張ってきた他の中学生への配慮もあって、このようにせざるを得なかったのだと思います。確かに大勢の観客の前でやりすぎたところはあるかもしれませんが、これを体罰だと捉えるには大げさすぎるのではないでしょうか。

 報道は事実そのままではなく、報道する側の意図が必ず入っているもの。また、週刊誌や報道番組以外でもネットニュースでもひとつの事柄について様々な視点から記事が掲載されています。報道や記事を鵜呑みにせず、自らの視点で物事を判断する力を読者も養うべき時代なので、ひとつの視点だけの記事や報道で結論付けずに、あらゆる視点からの情報を取り入れて賢くニュースを見ていきたいものです。

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