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ベンゼン79倍で見えてきた方向性

 豊洲市場への移転問題が益々混迷を深めている。この問題についての私の見解は、かつても本紙で明らかにしたように、「都議選の際に都民投票を実施し、残留か移転を決せよ」というものだが、とはいえ、専門家会議が安全宣言を出し、財政を重視する役人に押し切られて移転派が勝利すると、どこかで諦めていたところがあった。

 しかし、基準値の79倍を超えるベンゼンが豊洲から検出された事で、そのシナリオは無理筋になってしまった。何よりも第1に、都民に一応信頼されていた専門家会議の委員たちから「なかなか見られない現象」「初めての経験」「あまりにもショッキング」と驚きの声が続出し、平田健正座長に至っては「原因が分からない。なぜこうなったのか調べたい。このままでは評価できない。戸惑っている」と言う始末だ。これほどまでに政治問題化したうえにデータが信用できないとなると、よほど都庁に恩を売りたい御用学者以外は、誰も「豊洲は安全です」とは言わないだろう。では、役人はどうかと言えば、おそらくこの状況で小池知事に「ここまで投入した経費を考えれば豊洲移転以外の判断はあり得ません」と進言できる人間はいない。何故なら、それを知事に進言するためには79倍のベンゼンが出た理由を説明しなければならないからだ。

 なぜ専門家が戸惑うようなデータが今になって現れたのか。数千億円の経費を無駄にできないと考えた都庁の役人達が、移転を推進するために検出データを偽って報告していた(あるいは業者に虚偽のデータを報告させていた)と考えるのが、最も合理的な推測だ。その上、調査会社には都庁OBが天下っていたという状況証拠までそろっていては、役人としては、この問題に触れたくはあるまい。特定の調査会社に責任を押し付けるか、個人の告発が世に出るといった事態にならない限り、この問題は「限りなく黒に近いグレー」としてうやむやになる公算が高い。都庁の幹部達だって、それを望んでいるはずだ。

 ベンゼンデータの改ざんは、「知事や議員に豊洲移転を説明するためのポンチ絵に本当はあるべき空洞が無かった」レベルの罪ではない。前回のような左遷や最大6か月の減給でお茶を濁せないだろう。良くて懲戒免職、最悪の場合、刑事罰に問われても仕方がない悪行である。財政を考慮し走り始めた政策を推進しようとするのは役人の習性ではあるが、それ以上に大切なのは我が身である。そう、自己保身こそが役人最大の行動原理である。

 さて、専門家と役人が「推進派」から降りれば、どうしても豊洲に移転したがっているのは、都議会自民党の面々と築地の推進派仲買人しか残っていない。スポーツ紙レベルの情報では、その仲買人もベンゼン79倍で豊洲移転を諦めつつあるという。

 とすれば、何も都民投票などするまでもない。小池知事は、豊洲移転反対を明確にし、都議会自民党=「ベンゼン情報を改ざんしてまで豊洲に行きたい人達」VS「それを阻止する都庁改革派」というテーマで都議選を戦えば良い。ワンイシューによる選挙は知事の師匠、小泉純一郎元総理の得意技だったではないか。

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