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誰のための「いじめ防止対策推進法」か?

 安倍内閣を評価する際には、安保関連法制やアベノミクスばかりが遡上に上がり勝ちだが、私は「いじめ防止対策推進法」の制定が大きな成果だと思っている。この法律は、形式上、議員立法により成立したことになっているが、自民党は、野党の間からいじめ防止を目指すNPOなどの要請を受けてこの法案を研究していた。

 平成25年に成立した「いじめ防止対策推進法」は、附則で3年後に法の実施状況を検討し、状況によって必要な措置を加えるよう規定されており、今年がその3年目に当たる。そこで、文部科学省管轄の下、「いじめ防止対策協議会」が設置され検討されていたが、そこでの最大のテーマは、本法律に規定された義務を果たさない教員等に対する懲戒の問題であった。

 そもそも、この法律が制定された理由は、当時の学校のいじめが起きた時の学校の対応が、あまりに不誠実なものだったからである。教師一人の判断による「喧嘩両成敗」的な対応はもちろん、学校による隠蔽、大津市教育長のいじめ自殺者の親への非難めいた発言等々により、国民の学校教育への信頼は地に落ちていた。だからこその、法律の制定であったのだ。

 ところが「いじめ防止対策協議会」のメンバーは、相変わらず国民から事実上の不信任を突きつけられた学校長や教育長が入っている。では、彼らは、義務を果たさない教員への懲戒に対してどのような反応を示したのだろう。

 「現場の教師たちは、『オレたちを信用しないのか』と怒っている」「(周囲の学校関係者たちに)『あなたが委員ならなぜ反対しないのだ』と言われた」「遺族の方も懲戒処分を望んでいるわけではないと思います」などと次々に教師側の立場からの反対意見を表明したのである。いじめ被害者の人権を守るために懲戒の必要性を訴えたメンバーもいたが、その声は多数を占める教育界出身者に押し消されてしまった。

 ならば、「いじめ防止対策推進法」の成立によって、学校現場は彼らが言うように信用に値する機関に更生したのだろうか。私は、その答えが横浜で起きた「原発避難者へのいじめ対応」だと考えている。

 放射能の毒性レベルについては専門家の間でも意見が分かれており、ここではそれに言及しないが、自己判断により原発事故周辺からの避難を目的に移住することは何ら非難される行為ではない。しかし、一部の人達に彼らを非難する感情があるのもまた事実だ。だとすれば、原発避難者の子弟を預かる学校は、世間の感情が「いじめ」に発展しないように気を配るべきであった。ところが、学校は法に規定された措置を怠り、横浜市教育委員会も学校に何ら介入しなかったのである。横浜市は、田舎の一自治体ではない。日本最大の政令指定都市である。その横浜市でこのような事件が起きるという事は、教育界の体質は法制定当時と何一つ変わっていない証左ではないだろうか。

 「いじめ防止対策推進法」の実施状況の検討を校長や教育長にさせている限り、この事態は決して改善しない。安倍内閣には「いじめ防止対策協議会」のメンバーを総入れ替えし、再度、教職員への懲戒規定が本当に不要なのかを検討して欲しいと切に願う。この法律は、いじめ被害者、ひいては学校に通うすべての子供達のためのものであり、教職員のためのものではないのだから。

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