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「テロリストに主役を演じさせるな」

 当方は昨年最後のコラムで「今年もテロで始まり、テロ警告で幕を閉じようとしている」と書いた。昨年1月7日、イスラム過激派テロリストによる仏週刊紙「シャルリーエブド」本社とユダヤ系商店を襲撃したテロ事件が発生。11月13日には再びパリでイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による「同時テロ」事件が生じ、130人の犠牲者を出したばかりだった。後者のテロ事件は欧州初の「同時多発テロ」だったこともあって、あたかも昨年1年間がテロ一色だったような印象のコラムの書いたわけだ。
 
 ところで、米国の国際政治学者ジョセフ・ナイ氏は「テロリズムの5つの真理」(独語訳)という記事の中で、「テロリストに主役に演じさせてはならない。テロとの戦いを第3次世界大戦と受け取ることは間違いだ」と警告を発している。

 米国で昨年12月実施された「国家の重要な問題は何か」の質問に対して、16%の国民が「テロリズム」と答えたという。前月は3%に過ぎなかったが、12月に入ると、その割合が5倍以上、増加した。その背景について、ナイ氏は大統領選を控えていること、共和党候補者トランプ氏の「イスラム教徒入国禁止処置」発言などが影響を与えていると冷静に分析する。

 ナイ氏は、「テロリストに重要なことは何人を殺害するかではなく、世界に大きなインパクトを与えることだ。特に、イスラム教スンニ派テロ組織『イスラム国』はドラマトゥギ―(作劇法)に重点を置いている。人質を野蛮なやり方で首切りを行ない、そのシーンをネットワークで拡大し、世界にショックと激怒を引き起こさせている」と説明する。

 カーター政権時代に国務副次官、クリントン政権時代には国防次官補などを歴任したナイ氏は、「工業国の国民にとってテロは決して最大の脅威ではない。テロで殺害される確率は交通事故や喫煙による死亡率より圧倒的に低い。専門家によると、米国でテロで殺害される危険性は350万人に1人に過ぎない。テロに遭遇する確率は雷に打たれて死亡するより少ないのだ」と例を挙げて非常に説得力溢れる論理を展開する。
 
 ナイ氏によれば、グローバルなテロリズムは決して新しい現象ではない。20世紀初め無政府主義者が自身の理想主義を唱え、政府関係者を殺害し、1960年代、70年代には「赤い旅団」や「ドイツ赤軍」が旅客機を奪い、政経界のリーダーを殺害した。現在のジハード主義者は宗教の衣服を被った古い政治的現象だ。指導者たちは伝統的な根本主義者ではなく、世界のグローバル化で自身のアイデンティティを奪われた人間たちがカリフ国家の建設に意味を見出しているのだ、という。

 ナイ氏が指摘するように、テロを警戒するのは重要だが、不必要に警戒したり、神経質となればテロリストの思うツボだ。冷静に状況を判断し、自身の日常生活に専心することが大切だろう。メディアもテロ問題を過大報道して国民の不安を煽ることは慎むべきだろう。

(ウィーン在住)

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