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四大大会の記者会見へ一石を投じた大坂選手 会見拒否、うつ病告白で曖昧になった真意

 先月末、パリで開催中のテニスの四大大会のひとつ、全仏オープンに出場し、1回戦突破をした大坂なおみ選手が、記者会見を拒否したことで、大会主催者側からは罰金を科され、四大大会出場停止の警告まで出されました。また、トッププレーヤーのテニス選手たちや、世界中のメディアなどから批判の声も上がったりと、大きな騒動を巻き起こしました。日本でも最近のワイドショーやニュースでは毎日のように報道され、大坂なおみ選手に大きな注目が集まっています。

 記者会見を拒否した後、SNS上でうつ病であることを告白し、2回戦を棄権。なぜ会見を拒否したのか、その理由についてもSNS上で明かし、他の選手たちや、ネット上でも大坂選手を心配し、応援する声が上がりました。それでも、大坂選手の一石の投じ方に疑問を抱く声や、批判の声も上がっています。

うつ病で悩んでいたと明かす大坂選手に支持の声多数

 女子テニスの世界ランク2位の大坂選手は、テニスの実力だけでなく、SNSを活用したオピニオンリーダーとしても注目を集めています。そんな大坂選手が世界的な騒動の渦中にいる発端となったのは、全仏オープン開幕前の5月27日にSNSに以下のような投稿をしたことからでした。

 「私はローランギャロス(全仏オープン)では記者会見を行わないことを表明します。アスリートの心の健康状態が無視されていると、記者会見を見たり、参加したりするたびに感じていました。何度も同じ質問をされたり、私たちが疑念を抱く質問を受けたりすることが多く、私は自分を疑うような人の前には出たくありません」

 記者会見を行わないという宣言通り、1回戦突破後、記者会見場に姿を見せず、大会側は規定違反により165万円の罰金を科しました。さらに四大大会の主催者は合同で声明文を出し、「違反を繰り返すと、大会からの追放、多額の罰金、四大大会への出場停止など、より厳しい制裁を受けることになる」と警告。

 大坂選手はその後、31日に自身のツイッターで、2回戦を棄権すると表明し、「2018年の全米オープン以降、ずっとうつに苦しんできていて、つらい日々を送っている」と、四大大会優勝を果たした3年前から、うつ病のような症状に悩まされてきたことを告白しました。トップアスリートは、自身の弱さをあまり見せないようにしますが、大坂選手はツイッターで、自分は内向的で、インタビューはいつも緊張していたと、弱い部分をさらけ出し、なぜ記者会見を拒否したのか、その理由を明かしていました。

 「私はもともと人前で話せるような人間ではないし、世界中のメディアと話す前には大きな不安の波に襲われます」

 「本当に緊張していて、いつもインタビューに応えて、ベストな回答ができるようにすることはいつも大きなストレスです。それで、ここパリではすでに傷つきやすい状態で不安を感じていたので、セルフケアをして記者会見をスキップした方がいいと思いました」

 「ルールが部分的にかなり時代遅れだと感じていて、そのことを伝えたかったので先んじて表明しました。私は個人的に大会側に謝罪の手紙を書いて、四大大会というのはハードなので大会のあとで喜んで話をすると伝えました」

 大会主催者側に謝罪文を出し、大会終了後に話をするという大坂選手の対応を受けて、全仏主催者のフランステニス連盟のジル・モレットン会長は、更なる罰金、大会出場停止の警告をした時とはうって変わって、「大坂選手の棄権は残念であり、悲しい。来年の大会に彼女が戻ってきてくれることを願っています」と発言しました。また、元世界ランキング1位のセレーナ・ウィリアムスは、「なおみがどのような状態か私には分かります。抱きしめてあげたい気持ちです」と心配する姿勢を見せました。また、女子シングルで四大大会18勝のマルチナ・ナブラチロワも、「なおみのことはとても悲しい。彼女が大丈夫なことを心から願っています。私たちはアスリートとして体をケアするように言われていますが、おそらくメンタルや情緒面は軽んじられています。これは記者会見をするとかしないとか以上の問題です。なおみ、頑張って。みんな、応援しています」と応援の声を寄せました。

 日本の各報道番組のコメンテーターの中には、なぜ、義務付けられている記者会見を拒否したのか、SNSの発信だけでなく、直接表に出てきて対話をすれば良いではないかと主張する声もありましたが、うつ病告白を受け、主張を変え、大坂選手を擁護したり、謝罪したりしていました。俳優の谷原章介さんも番組内で、大坂選手がうつ病を告白する前日に、「SNSだけではなく会見でも主張してほしい」と呼びかけたことを、「辛い立場の方に申し訳ないことを言った」と謝罪しました。

大坂選手が記者会見へ投じた一石を無駄にしてほしくない

 大坂選手を心配し、応援する声がある一方で、記者会見を拒否した後、後出しのようにうつ病を告白する流れに違和感を覚えるという意見も多数あります。

 そもそも大坂選手が記者会見を拒否することを宣言した投稿では、選手への配慮が足りない記者たちに対するボイコットのような意図があり、選手が疑問を抱く質問をあえて行う記者への抵抗のように感じます。義務付けられている記者会見で、例えば選手を傷つけるような質問をする記者が多数いるのであれば、抗議の姿勢として大坂選手が記者会見を拒否したのであれば、大坂選手らしいと思えました。

 大会主催者側から罰金を科せられてから、大坂選手はSNS上で「怒りは理解の欠如。変化は人々を不快にさせる」と反論し、インスタグラムには伝説的なラッパー、ジュース・ワールドのアルバムジャケット「Goodbye
& Good Riddance」の画像を投稿しました。「さよなら。これでせいせいする」という意味のタイトルで、大会側への反発心が垣間見える投稿だったのですが、おそらく自身が思っていた以上に、記者会見拒否に対する批判の声が多く、大会主催者側の怒りも買ってしまったこともあり、うつ病を告白し、大会主催者側に謝罪し、少しの間コートから離れることで事態を収拾しようとしたのではとも考えられます。そうしたことで、本来の目的だった、選手に配慮しない記者会見に一石投じることが曖昧になり、初めからうつ病だと大会主催者側にだけでも診断書と一緒に報告しておけば、ここまでの騒動にはならなかったと思います。選手に配慮しない記者たちがいることが一番の問題だとは思いますが、その問題点を指摘するやり方が、記者会見の拒否というのは理解が得られにくい方法だったのではないでしょうか。そこにうつ病、大会の棄権、しばらくの間コートを離れると、一線を引く形になってしまったために、記者会見の問題点から、大坂選手の体調の心配と早く戻ってきてほしいという応援の方に関心が向いてしまい、せっかくの問題提起が曖昧になってしまいました。

 大坂選手が本当にやりたかったこととは違う結果になってしまったかもしれませんが、大会主催者側は、記者会見への問題提起をこのままスルーせず、質問内容にルールを決めたり、記者にも所属と名前を名乗らせたり、主催者側がきちんと記者会見を管理して、選手たちの精神面に問題のない会見へと変えてほしいと思います。

 東京五輪に意欲的な姿勢をみせていた大坂選手なので、来月開催を前にどの程度回復できるか心配ですが、世間の冷たい批判の声や差別的な声を受けながらも闘ってきた強いメンタルを持っている選手だと思うので、早く回復してまたコートの上で実力を存分に発揮してもらいたいものです。

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