ワシントン・タイムズ・ジャパン

育休取得を望む男性がぶつかる「パタハラ」の壁

 先日の5月23日、厚生労働省の調査にて、過去5年間に勤務先で育児に関する制度を利用しようとした男性の26.2%が、育児休業などを理由にした「パタニティーハラスメント(パタハラ)」被害の経験があると回答していたことが分かりました。この調査は、昨年10月にインターネットで実施され、自営業や役員、公務員を除いた500人が回答しました。

パタハラによって諦めざるをえない育休取得

 パタハラ経験者が、利用を諦めた制度としては育休が42.7%で最も多く、次に、残業や深夜業務の免除・制限が34.4%、短時間勤務や始業時間の変更が31.3%に上りました。

 複数回答で誰からハラスメントを受けたかについては、役員以外の上司が66.4%で最も多く、育休制度などを利用させなかったり、取るのを邪魔したりする言動をされたということです。特に、人事考課での不利益な評価やほのめかしなどが多くみられました。

 政府は男性の育休取得率を、2020年に13%にする目標を掲げてきましたが、2019年度の調査では、男性の育児休業取得率は7.48%で、前年度の6.16%から小幅の上昇にとどまりました。これを受けて、政府は2020年の5月に閣議決定した少子化社会対策大綱で、男性の育休取得率について2025年に30%とさらに高い目標を設定しました。

 政府が男性の育休取得の意識を高める一方、実際に職場では、育休を取得したいと話すと、上司や同僚から「男には必要ない」、「取得したら昇進昇格に響くからお前のためにならない」など、制度と社員の価値観のずれが生じており、取得を諦める人が多くいるようです。

 日本労働組合総連合会が、2019年に行った「男性の家事・育児参加に関する実態調査」によると(同居している子どもがいる25~49歳の男性有職者の調査)、育児休業を取得しなかった理由として最も多かったのは「仕事の代替要員がいない」(47.3%)、次いで「収入が減る(所得保障が少ない)」(36.6%)、「男性が取得できる雰囲気が職場にない」(32.2%)、「仕事にブランクができる」(13.9%)と答えていました。また、「取得したかったが、取得できなかった」と回答した人が30.2%で、「仕事の代替要員がいない」(63.6%)という理由が最も多く、次いで「男性が取得できる雰囲気が職場にない」(46.4%)という理由が多かったです。いくら制度では、男女平等に育休を取得できる権利があるといっても、職場では男性の育休取得に対して理解をえられないという現状にあることが分かります。

 2019年には、大企業の社員の妻が、SNSに「夫が育休から復帰後2日で、関西への転勤辞令が出た。引っ越したばかりで子どもは来月入園。何もかもありえない。不当すぎるーー」と投稿したことで炎上し、パタハラだとする声が多く上がり、この大企業の株が下落する事態まで起こりました。

正当な権利の制度が、周りに迷惑をかけると思われる現状

 パタハラとはどの程度のことを言うのか。厚生労働省が提示している資料の中で、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」の内容の、防止措置が必要となるハラスメントについて、「1.解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの」、「2.制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの」、「3.制度を利用したことにより嫌がらせ等をしたりするもの」とあります。

 1.の典型的な例として、「時間外労働の免除について上司に相談したところ、『次の査定の際は昇進しないと思え』と言われた」という事例があげられています。

 また、2.の場合は、「育児休業の取得について上司に相談したところ、『男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない』と言われ、取得を諦めざるを得ない状況になっている」という事例があげられています。

 そして、3.の場合は、「上司・同僚が、『所定外労働をしている人はたいした仕事を任せられない』と繰り返し又は継続的に言い、専ら雑務のみさせられる状況になっており、就業する上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明示した場合にさらに行われる言動も含む)」、「上司・同僚が『自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない、迷惑だ』と繰り返し又は継続的に言い、就業する上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明示した場合にさらに行われる言動も含む)」という事例があげられています。

 経済的な面や、核家族の増加などにより、共働きをしながら育児をすることが主流になってきている現在、ワンオペ育児(片親がひとりで育児をすること)でノイローゼやうつになってしまう母親や、子供を保育園に預けて働かないといけないのに、待機児童などの問題で預けられないなど、現代社会の育児の闇は深刻です。そもそも育児はひとりでできるものではなく、共同体の中で子供を育てていくことが本来です。核家族で近くに頼れる両親や家族がいない場合は、夫と妻が協力して育児をすることが、子供のためにも、夫婦のためにも良いはずです。少子化が深刻化している原因も、経済面だけでなく、ワンオペ育児の限界もあると思います。そのため、政府は男性の育休取得率をあげて子供を育てやすい社会にしていきたいという考えなのでしょうが、実際の職場では男性が育休を取得しづらく、取得したところで、嫌味をいわれる、昇進できない、転勤させられるなどのパタハラを受けるという現状。取得率が増加傾向にあるとはいえ、10%にも満たない原因は、育休中の人員不足、男は取る必要ないという古い価値観、自分だけ楽をして、周りにしわ寄せがいっていると不快に思う上司や同僚などで、職場自体が男性の育休取得に対して理解がない、制度を積極的に利用できる環境にないということなのでしょう。この点を改善しない限り、パタハラはなくなりませんし、男性の育休取得率が急増することはありません。

 共同体の中で子供を育てるという意識が低い現代で、政府が提示する育休取得の制度と、職場でその制度を利用しやすくするルールが足並み揃えていかなければ、少子化の問題は解決できず、未来の世代が育児をすることに希望を持つことはできません。男性社員に育児取得を義務化することができなくとも、せめて希望する男性社員が気持ちよく育休を取得できるよう、職場の環境を変えていく必要があると思います。簡単なことではないかもしれませんが、まずは社員同士が、育休は体の良い休みの口実、しわ寄せがきて迷惑という負の感情を抱かないように、男性社員が育休をとることは当たり前のことだという風潮が生まれ、他の社員になるべく負荷のかからない配慮を心がけてしてほしいものです。そして、育休取得を希望する男性も、父親として積極的に育児に参加し、育休明け以降も継続して育児に携わってもらえたらと思います。

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