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人民解放軍の「超限戦」は幻

■超限戦

 人民解放軍の喬良と王湘穂は、将来の戦争は全ての手段を使った戦争になると分析した。戦略研究の結果として1999年に「超限戦」は喬良と王湘穂により発表された。2人は新しい戦争に対応するために戦略を構築し、新しい戦争に対応した運用を行おうとした。

戦争学研究家 上岡龍次氏

戦争学研究家 上岡龍次氏

■超限戦とは総力戦

 超限戦と新たな呼称を用いているが、意味から見れば欧米の総力戦(Total war)なのだ。総力戦は政治・経済・軍事の全てを手段として用いる。欧米の総力戦は第1次世界大戦の中期から生まれた。戦争が長期化することで、国家の全てを投入した新しい戦争に適応していく。

戦争目的
全面戦争(All-out war) :交戦国の政権を否定する
限定戦争(Limited war) :戦争目的が限定されている戦闘と交渉
制限戦争(controlled war):政治が軍事に介入する

手段・方法(戦い方)
総力戦(Total war):政治・経済・軍事の全てを用いる

 第1次世界大戦末期には総力戦が完成し、戦後からは総力戦が基本の手段になった。そして第2次世界大戦前の欧米は、総力戦が基本の手段として戦争計画に組み込まれている。これが現実で、総力戦は新しい手段ではない。さらに言えば、戦争方法はテロ・ゲリラ戦・襲撃戦・航空攻撃・封鎖・拿捕・海上戦・地上戦まで多様。これが2600年の戦争史だ。

■人民解放軍では新しい戦争

 欧米では総力戦は第1次世界大戦末期に完成。この段階で欧米では新しい戦争に適応するために、将来の戦争に対応するために総力戦を基本とした。それ以後の欧米は国家区分を新たに決めている。

戦争学における国家区分
王朝国家(King with mercenary):総力戦(Total war)が困難
武装国家(Nation in arms) :第1次世界大戦前期の欧米・軍事だけで戦争する
戦時国家(Nation at war) :第1次世界大戦中期からの欧米・国家の全てを用いる総力戦

 第1次世界大戦後から国家区分は、王朝国家・武装国家・戦時国家の3区分になった。このため欧米の総力戦は、1919年の段階で将来の戦争に対応する状態。それに対して人民解放軍は、1999年の段階で新しい戦争に対応する程、認識の違いがある。超限戦と派手にして、新しい戦争に対応するとしたが、実際は欧米から見れば周回遅れ。

■中国共産党は総力戦を使えない

 超限戦は総力戦だが、哀しいことに中国共産党は使うことができない。何故なら人民解放軍は中国共産党の私兵。これが原因で、中国は王朝国家に該当する。結論から言えば、中国共産党は総力戦・超限戦を使えない。

 人民解放軍は中国共産党の私兵であり、人民の反乱に対応する武装組織。このため外国の軍隊と戦争する国家の軍隊とは異なる。簡単に言えば、国家の軍隊は地方分権で人民解放軍は中央集権。

国家の軍隊:地方分権
人民解放軍:中央集権

 国家の軍隊であれば、国内各地に物資の備蓄が行われ基地を支援する。さらに国境付近に基地を配置し、遠征に適したジャンプ台にする。それに対して人民解放軍の基地は無いも同然。

 人民解放軍は中央集権方式で、北京付近に有力な基地が置かれている。そして人民解放軍を直接地方に配置する方式を採用している。理由は地方の反乱対策。そのため地方には製造・整備・補給が行えない。地方の基地は、軽整備・補給が出来る程度。

基地:戦略的地勢・戦力(兵員・装備)の休養・補給・整備・防護の機能。そのためには基地周辺に工場と技術、本国との兵站連絡施設が必要。

泊地:戦略的地勢・戦力の休養・軽整備の機能で十分。

 南シナ海に人工島が建設され基地化されたのは事実。だが実際には基地ではなく泊地程度の機能しかない。だから外部からの補給が途絶えれば、直ちに機能停止に陥る。人民解放軍は総力戦・超限戦を使うだけの基地ネットワークが存在せず、外国軍の総力戦に対応できない。

■日本は苦労した

 日本が総力戦を体験したのは1941年の開戦から。欧米軍は戦時国家なので総力戦が基本だから、武装国家の日本は知らぬ間に総力戦に放り込まれた。武装国家の日本は戦争中期から総力戦を始めると、1945年辺りで完全に対応できる様になった。

 日本は戦時国家であり総力戦が基本の欧米に対応し、体験から日本は戦時国家へ移行した。日本は敗戦したが、総力戦の会得は容易ではないことを日本が示している。では王朝国家の中国共産党は?

■日本軍の敗北

 人民解放軍が総力戦を研究したのは事実。だから超限戦として公開された。しかし運用となれば、王朝国家から戦時国家へ移行しなければならない。日本は武装国家から戦時国家へ移行するだけでも苦労した。これは欧米も同じ。

 中国共産党の場合は、王朝国家から武装国家・戦時国家へ移行しなければならない。そうでなければ総力戦・超限戦など行えない。それには人民解放軍を、党の私兵から国家の軍隊にしなければならない。中国共産党は過去に国家の軍隊にすることを行なったが失敗したようだ。

 人民解放軍が総力戦を行える基地ネットワークすら未整備であり、南シナ海の人工島すら基地として機能しない。実際に戦前の日本軍が典型例。日本陸軍と海軍は太平洋の島々を基地化したが、実際は泊地程度が大半。しかも基地ネットワークが未整備で、島々の拠点は容易に遮断された。

 敵対したアメリカ軍は泊地と基地を明確に区分し、自軍の兵站を維持した。同時に日本軍の兵站線の弱点を見抜き、緊要地形の島だけを攻略、もしくは潜水艦を用いて兵站線を遮断した。これで日本軍は飢餓に陥るか、補給が止まり敗北している。

■人民解放軍は敗北する

 武装国家であった日本は戦争への備えが不足。総力戦を想定しておらず、戦略の土台すら無い。人民解放軍は総力戦の研究はしたが、国内外の基地ネットワークが未整備。これでは戦争が長期化すると機能低下は避けられない。

 仮に米中戦争が始まり、1年以上の戦争になれば、人民解放軍は敗北する。アメリカ軍は愚かではない。人民解放軍の弱点を知っているなら、意図的に戦争を長期化させる。これだけで、人民解放軍を敗北に追い込めるからだ。

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