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(小説)特捜検事失脚と令和維新

 咲良はホテルの一室に入って行った。そこでは総長が待っていた。

 「困りましたね。伊豆検事が辞めてくれたと思ったら、今度は大家君が私の対抗馬として選挙に出るなんて。一難去ったと思ったら、また一難ですね。」

 「選挙の話は後でしよう。困ったものなのは向井総理だよ。外交は良いのだが岡田副総理がいなければ国内をまとめられない。そこで岡田君を守るために特別法を作ってまで伊豆検事を重用しようとして…」

 「国会が群衆に包囲されて特別法を取り下げざるを得なくなりましたからね。」

 「あの騒ぎ自体が大家君お得意のネット戦術で皆が催眠術にかかったようなものだったが…。」

 「大家君もカジノ利権には関わっていましたからね。」

 「もともと公営ギャンブルで儲けたカネで、父も私も全世界で慈善事業を展開して来た。」

 「お父上―大先生には大変お世話になりました。」

 「君は学生時代の海外留学以来CIAとは関係あった。そして私の父は戦前は部下だった小島が戦後は先にCIA日本支局長になった。そこで公営ギャンブルでカネを貯めて捲土重来を父は期していたのだが、そのカネを警察出身の政治家を使って奪い取ろうとしたのが高橋元総理だ。高橋は中国に接近しすぎてCIAから見放された。高橋と二人三脚で戦後日本を支配して来た小島もだ。そこでCIAと協力して父は高橋元総理と小島を疑獄事件で失脚させ、CIA日本支局長の地位に就いたのだ。」

 「CIAの代理人がハーバード大学の教授だったんですよね。」

 「あの頃から21世紀は情報通信の時代になることが分かっていた。だから米国本土から日本へ海底ケーブルを敷設するにあたって、通過点になる太平洋の島々に、莫大な工作資金をバラまいて現地の理解を得たのも父だった。」

 「その海底ケーブルが、同じ教授がコンサルタントして動いて、その後は中国の揚子江の下に張り巡らされ、さらに今は東南アジア諸国にも回って行き、現地の経済発展にも大きな貢献になったんですよね。」

 「東南アジアも我々のものだ。国内のギャンブルもだ。それを、あいつらは取り上げようとしたのだ。かつての高橋元総理のように…。」

 「最初はカジノ担当の政務官が北海道にカジノを作るためにパチンコ業界を通じて東南アジア系のマネーを受け取った疑いで地検特捜に逮捕されたんですよね。」

 「それも私がさせたことだ。高橋元総理の場合と同じように…。」

 「潮騒社を使ってね。両方とも…。」

 「今回もだ。伊豆検事の疑惑をリークしたのも潮騒社だからな。」

 「彼の特別任期の話が出てから、カジノ問題の追求が立ち消えになった。」

 「岡田副総理を守るためにね。あいつは自分の選挙区にカジノを作ろうとした。それでは私が都内にカジノを作る計画がダメになる。許せない!」

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life panによるPixabayからの画像

 「前田元総理もね。もともとオリンピックの関係もあって、カジノを最初に北海道に作ろうとしたのは前田元総理だし…。」

 「君には苦労ばかり掛けておるなあ。オリンピックの関係で…。」

 「いえ。こんな良い地位に着けて頂いて光栄です。」

 「オリンピック競技場の建設利権の問題も君が部分的にでも明らかにしてくれた。前田君も、さぞ困っただろうよ。」

 「私からバレンタインのチョコレートを貰ってくれませんでしたからね。」

 「彼と既得権の結び付きは建設業界だけではない。部分的だが銀行業界もある。何とか彼らの嫌がる金融規制緩和で兜町をウオール街とロンドン・シティーに並ぶ世界の三大金融センターにしないと…。それがCIAの意志でもあり、日本が21世紀を生き残る道なのだが…。」

 「そのためには村山さんの協力が不可欠だったのですが…。」

 「村山君は大家君と共に我々の反対に行ってしまったしね。そもそも彼らは早く権力を握りたいと焦りすぎる。実は親が日本国籍を持っていなかったことを隠しているという問題もあるのだろうが…。」
さんとは一緒に大臣をやったけれど、その頃から武藤幹事長と協力して、保守党の有力代議士の息子さん達を麻薬漬けにするようなことをやっていた。武藤さんもお気の毒に…。自分の息子まで巻き込まれるとは思っていなかったんでしょうね。」

 「前田君も、な。」

 「前田元総理の息子さんの目の前で有名女性タレントが過剰摂取で亡くなった。それを別の有名男性芸能人が代わりに罪を被った。」

 「村山君が保守党を辞めて財界に転じてから始めた異業種交流会では、かなり大物の芸能人やオリンピック関係者、政界・財界は無論のことメディア関係者に至るまで、幅広く薬漬けにして来た。」

 「そもそも東京連盟が村山さんに薬を提供して来た。」

 「大家君も色々やっとったねえ。だから私は一度は彼にお灸を据えたんだが…。」

 「何れにしても芸能界には深く関係していた。薬漬けにした女優さんを使って他の有名人にハニートラップを仕掛けたりまでしていた。」

 「だから私は去年、芸能界浄化のための大作戦を展開した。」

 「パチンコ業界も、ね。」

 「この二つは繋がっとるからね。日本国籍を持たない者共の利権として…。」

 「今回も苦労しましたよ。休業要請業種の中にパチンコ店を入れるのには…。」

 「良く頑張ってくれたよ。だが、そのために大家君は君の対抗馬に出ることになったのかも知れない。パチンコ業界の利権さらには裏で繋がる芸能利権や薬物問題までも守るために…。」

 「大家君の選挙のプロディユースを陰で仕掛けているのは加藤さんらしいですよね。加藤さんは昨年の芸能界浄化作戦では、こっち側で頑張ってくれていたのに…。」

 「オリンピックの関係で私と一緒に金儲けができると思っていたからだろう。そのオリンピックも延期になってしまったし…。それと15年くらい前の大家君の最初の全盛時代の時、協力関係にあった国際的ファンドから数十億の借金を背負わされたようだし…。その辺の事情に関しては、あのファンドが動いている東南アジア方面からの情報でも知っている。最初にパチンコ業界経由で政務官にカネを送ったのも彼ららしい。」

 「大丈夫かしら?大家君のネット戦略。加藤さんのプロディユース力そして国際的ファンドのカネの力…。」

 「大丈夫だ。次の特捜検事には私に近い人間がなるようにする。世間は誤解しているが、伊豆検事は任期の問題で向井総理の言いなりに岡田副総理や前田元総理を見逃そうとしただけではない。もともと彼は左翼政党時代に法務省の人事を取り仕切る地位に着けて貰った関係上、左翼政党寄りの人物だった。パチンコ利権は日本国籍のない人々の利権だから、むしろ左翼政党の利権なのだ。」

 「3年前の選挙では酷い目に遭わされましたよ。あの嘘つきども!」

 「もう直ぐ報復が出来る。次の特捜検事は左翼政党から何人も逮捕者を出すだろう。その代わりに岡田副総理や前田元総理は逮捕はさせない。これ以上、日本の保守政党を混乱させないためにもな。副大臣と副総理の中間くらいにいる保守党の偉い者が人身御供になって終わりかな、といったシナリオを書いている。」

 「その代わりカジノ利権は総長が独占される、と?」

 「その方向で岡田君や前田君と、これから調整するつもりだ。」

 「上手く行きますかね?」

 「去年パチンコ利権の関係で左翼政党が守ってくれなかった代わりに私が身柄を引き取った若い女優の持っている録音データの中には、カジノの立地やカネの流れまで部分的に示唆するような会話が録音されている。少なくとも加藤君の30年来の片腕で、例えば20年前に100億円単位のカネを、やはり娯楽産業の会社から引き出した男と東京連盟の深い関係が分かる録音がある。この問題を追って行けば薬物問題にまでつながるだろう。それを持ち出せば加藤君、大家君、村山君さらには岡田君や前田君の人生にも大きな悪影響が出て来る。彼らも退け際は弁えているのではないか?」

 「では私の選挙も…。」

 「大丈夫、私に任せておおきなさい。私達は日本の歴史と文化を背負っている。表面上、如何に強そうに見えても、それを背負っていない大家君や村山君その他の日本国籍でなかった人々に負ける筈はない。300年の幕府を代表していても、徳川慶喜は鳥羽伏見の闘いで錦の御旗の前に負けた。国を大事にする気持ちが、どちらにあるか?今回の君の危機管理を見ていれば、選挙民にも明らかだろう。

それと維新軍は実は天保改革で農地経営に乗り出した都市の商業資本の後押しも受けていた。我々はCIAと米国資本主義本流の後押しを受けている。村山君にも大家君にも向井総理にも出来ない金融規制緩和が出来るのは今となっては戦略特区を使える君だけだ。

矛盾したようだが、新しい実態と古くからの伝統を上手く融合できるのが日本文化の本来なのだ。まさに今は令和維新の時なのだよ。」

 容色が衰えてはいないものの、70歳近い咲良と、90歳近い総長は、そのまま別れた。

 数ヶ月後の選挙で咲良は大家に勝ち、その前後に今までの会話で出て来た人物達の何人かは逮捕ないし引退に追い込まれた。その陰では録音データを巡るやり取り、さらには米国からの裏マネーによる協力もあった。令和維新の始まり。鳥羽伏見の闘いのようなものだ。これからが本番だろう。

(以上の文章は全てフィクションである)


「GII REPORT」より転載
https://ameblo.jp/gii-report

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