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バクダディ暗殺は、どのように日本に影響して来るか?

 10月27日、米国のトランプ大統領は、ISの指導者バクダディ容疑者を、シリア北部で米国の特殊部隊が暗殺したと発表した。しかし、それに対する好意的な評価は少なかった。ISはフランチャイズ化されているので、リーダーを暗殺しても活動を低下させることは難しい。むしろ報復的な意味で激しいテロが今後に起こる恐れさえある。そもそもウクライナ疑惑による弾劾や、シリア北部からの撤退によるワシントン内での批判を、少しでも躱すための暗殺作戦であり成果発表ではないか?

 しかし米軍は実はシリアから完全撤退する訳ではない。シリア東南部には未だ多くの米軍が残っていて、これをトランプ大統領は200名まで削減する意向だったが、エスパー国防長官達の意見を取り入れて、500名はシリア東南部に残す方針となった。

 と言うのは、この地域の油田地帯が、アメリカが見捨てたと言われるクルド人勢力の、重要な資金源だからである。それだけではない。

 今回のバクダディ暗殺も、このシリア東南部の米軍とクルド人勢力が協力して、バクダディの居場所を突き止めたことなどが、その成功の原因であると言われている。

 つまり米国は実はクルド人を完全に見捨てた訳では少なくとも今の段階ではない。資金源や情報共有等の形で、クルド人勢力を陰から今のところは支援していると言って良い。

 そのためかクルド人勢力とアサド政権の協力も、この度の暗殺作戦の顛末を見ても、どうやら今のところは実は上手くいっている可能性が低くない。もちろんアサド政権の背後にはロシアがいる。

 トランプ大統領は暗殺作戦を行う米軍の軍用機がロシアが実効支配している場所の上空を飛行することをロシアが許可してくれたことに関して感謝の意を表している。もちろんロシアは表面上そのような事実はないと否定している。

 何れにしてもトランプ政権は、ロシアに事前にバクダディ暗殺を通告していた可能性は低くない。それに対して下院民主党には何の事前の通告もなかった。リークを恐れたからであると、トランプ大統領は公言している。

 これに下院民主党は強く反発。弾劾手続きの流れは、ますます加速しそうである。

 いま共和党には、2020年の選挙で当落線上にいる上院議員が10人くらいはいる。今後のトランプ氏への批判の高まり方次第では、ギリギリの攻防をトランプ氏は上院の弾劾裁判で強いられるかも知れない。

 その場合トランプ氏は例えば、イランや中国が、ペルシャ湾や南シナ海で、アメリカの船舶に先に攻撃して来たとして、これらの国と戦闘状態に入る。そうすることで弾劾裁判を強行突破する。そういったシナリオも考えられなくはない。

 しかしトランプ大統領の今までのパターンからすると、どうも出来るだけ戦争はしたくないと、本心から思っているようにも思われる。

 またトランプ大統領は何人かの共和党上院議員には事前にバクダディ暗殺作戦を通告している。つまり彼らはトランプ大統領から絶対的に信用されているのである。彼らが中心になって上院共和党を取りまとめれば、トランプ氏が最終的に弾劾される可能性は高くないのではないか?

 もっと重要なことがある。

 今回のトランプ氏のバクダディ暗殺発表は、オバマのビンラディン暗殺発表を意識したものであることは言うまでもない。オバマの支持率もビンラディン暗殺発表後かなり上昇した。それにあやかろうとトランプ氏が考えたことは十分以上に有り得ることだろう。

 しかしオバマの支持率向上は、ビンラディン暗殺発表から、あまり長くは続かなかったのである。ブッシュ親子の中東地帯での戦争行為による支持率向上も同様だったことは言うまでもない。

 オバマはビンラディン暗殺から約1年半後に再選されている。しかし、これはティーパーティの躍進などによって、かえって共和党が混乱していた敵失による。この時オバマの支持率は再選されるに十分ではなかったと言う専門家もいる。

 ブッシュ一世は湾岸戦争の勝利で非常に高い支持率を享受した。しかし約2年後の大統領選挙でビル・クリントンに惨敗した。

 ブッシュ二世は大統領再選されているだけではなく、2002年の中間選挙で歴史上とても珍しく大統領与党(共和党)を勝利させている。2002年中間選挙はアフガン戦争から約1年であり、2004年の大統領選挙の時にはアフガンやイラクでの戦闘行為は続いていた。

 こう考えると米国がイランないし中国などと戦闘行為を始めることがあるとしたら、2020年大統領選挙の近い時点だろう。例えば弾劾裁判を乗り切ったトランプ大統領が、しかし結果としての支持率低下に悩まされたような場合、中国やイランとの何らかの戦闘等があるかも知れない。もちろん弾劾裁判でギリギリの瀬戸際に追い込まれるのが今年の年末くらいだとしたら、それも考えられるタイミングだろう。

 もちろんイランや中国との戦闘とは限らない。ISによる大規模な報復テロに対する報復攻撃の形になるかも知れない。

 いまシリア北部には10000人以上のISの戦闘員がいる。このうち2000人が、本気のテロリストだったと言われている。彼らは今まで主としてクルド人勢力が捕獲していた。しかし同地域からクルド人勢力が撤退を余儀なくされたため、この戦闘員たちは野放しに近い状態になっていて、100人以上が既に脱走していると言う情報もある。

 この人々による大規模な報復テロが起こったら、どうするのか?しかも日本人も10人前後はいたという情報があるのである!

 しかしトランプ大統領が、そんなに苦しくない状況で弾劾裁判を潜り抜け、2020年の再選も容易そうな状況になれば、彼とプーチンとの裏の采配によって、ロシア、トルコ、シリアそしてクルド人勢力が協力し、これらの元(?)戦闘員を野放しにしないことも可能なように思われる。

 但し、これら元戦闘員達は、ヨーロッパ諸国の移民の子孫で、ヨーロッパ諸国の国籍を持っている人々が少なくない。この人々を例えばアサド政権が長期抑留したりすることには、国際法その他の観点から問題がない訳ではない。

 しかし例えば英国籍の900人の内、帰国して起訴され英国籍を剥奪されたのは40人に過ぎない。ロシアから行ったと言われる数千人に関しては、ロシアは決して帰国を許すつもりはなさそうである。

 それに対してトランプ氏は、これらのテロリストに対する何らかのケアは、彼らが国籍を持つ国が、責任を持って行うべきであり、アメリカ国民の税金は、びた一文払わないと断言した。

 だが11月1日にISが、バクダディの後継者を指名したことで、いろいろ状況が変わったと思われる。トランプ氏は兎も角、米国の方針である。

 この新しい後継者は、バクダディとは違って、カリフ制その他の問題で、アルカイダと争うつもりはなさそうだ。先に指導者であるビンラディンの息子を暗殺されたアルカイダを仕切るナンバー2のザワヒリは、この人物が指導するISと協力する可能性が低くない。

 アルカイダは一説では3億ドル近い資金を持ち、シリアにも2000人の戦闘員を持っているとも言われている。

 そこで米軍としては、トランプ政権の方針に関わらず、シリアにいるテロリスト達のテロ等を抑止するため、クルド等の反テロ勢力に力をつけさせるため、この地に残っている米軍によるテロ対策訓練等を、これから重視したい方針である。

 このような現地テロ対策勢力の訓練等に関し、日本の自衛隊を派遣することは出来ないか?今の憲法上の問題も少なく、そして過去25年間のPKO活動等を通じて、ノウハウを日本の自衛隊は持っている筈である。アジアの現地人の気持ちを理解する力は、アメリカ軍より日本の自衛隊等の方が持っているかも知れない。

 またイギリス等は、シリア等から帰還したIS戦闘員等に対する「逆洗脳」というか、イギリスで生活する普通の英国籍の人に戻すための、プログラム等を積極的に行っている。そのようなものに積極的に日本も関与すれば、テロに走りそうな日本人を、まともに戻すようなプログラムの日本版を作ることもできるかも知れない。

 例えば今の日本の自衛隊は、グリーン・ベレーのような特殊部隊も持っている。これは2004年にイラクに自衛隊を派遣し、グリーン・ベレーと一緒に活動させたお陰でもある。

 何れにしても私が『サイコ型テロへの処方箋』(近代消防社、平成30年刊)で書いたように、テロとは国際テロとは限らない。相模原の障害者施設殺傷事件や京都アニメーションの事件のように、今の日本の社会に不満を持つ普通の日本人が、オリンピック開催中に、競技場とは別の場所ででも、テロ的大量殺人を行なったら、どうするのか?

 『サイコ型テロへの処方箋』でも書いたが、そのような危険な人々を事前に見つけ出し、更生プログラム等を受けさせる制度の確立は、オリンピック以前に行わねばならないのではないか?

 今の状況を見ていると、そのような感を強くせざるを得ない。シリアにおけるテロ対策勢力の育成に、自衛隊を派遣することと同時に、そのようなシステムの日本での確立が、一刻も早く行われるよう、一日本国民として祈って止まない。

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