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中距離核戦力全廃条約の失効とブラフの世界

■中距離核戦力全廃条約の失効

 中距離核戦力全廃条約はソ連とアメリカで1987年に結ばれた条約。ソ連崩壊後はロシア連邦が条約を継承した。だが時代が変わり中国が核保有国として成長し、中国は中距離核戦力全廃条約に縛られることなく核戦力を増強。

 トランプ米大統領は中国優位が気に入らない。そこで2019年2月に中距離核戦力全廃条約を破棄し、中国も含めた新たな中距離核戦力全廃条約を求めている。

■核兵器の区分から見る

 核兵器は攻撃目標により、戦略核・戦域核・戦術核に区分される。この3区分は軍事作戦だけではなく、政治用の取引にも使われる区分になった。

核兵器の区分
戦略核:敵国本土・核基地と市民が目標
戦域核:戦域・軍事基地が目標
戦術核:戦場・軍隊が目標

 戦略核は敵国本土を攻撃するから、敵基地・政治家・民間人を攻撃目標とした。だが核保有国は、政治家が死ぬと外交交渉が行えないから和平も行えない。これでは戦争を終わらせることはできない。そこで政治家を攻撃目標にしない暗黙の了解が生まれ、戦略核削減の要因になった。

 冷戦期は核兵器で相手国を脅したが、核兵器を運用すると金食い虫だと判明する。核兵器は毎日点検が必要であり、定期的に大規模な点検も必用な兵器。核兵器を保有することは簡単だが維持が難しい。そこで政治家を攻撃目標から外すことは戦略核の削減に繋がる。同時に節約になるから一石二鳥。戦略核の削減は利己的な考えから行われた。

 戦術核は通常戦力で戦争に勝てる場合にのみ放棄する。だからアメリカ軍の様に通常戦力で戦争に勝てる国は、戦術核の必要性が低下した。だが通常戦力で勝てない国は、戦術核を担保に敗北に備えた。だから戦術核の削減は自軍が不利になるので、外交交渉では使われない。

 残されたのは戦域核だが、国土の外に展開する基地と敵軍が攻撃目標。弾道ミサイルでは中距離弾道ミサイルに該当し、軍事作戦と外交で曖昧な領域になった。この曖昧な領域が中距離弾道ミサイルの範囲であり中距離核戦力の範囲だった。軍事作戦として曖昧な領域だが、外交交渉では都合の良い領域になった。何故なら曖昧だから外交交渉が可能になる。

 この理由から中距離核戦力を削減することが可能になり、双方は削減で資金の節約ができることになる。双方に旨味があるので、中距離核戦力全廃条約はソ連とアメリカで結ばれた。

■ブラフの可能性

 当時のソ連とアメリカは中距離弾道ミサイルを交渉材料にしたが、この時配備された中距離弾道ミサイルは完成品なのか疑問が持たれている。真偽は定かではないが、ソ連とアメリカはハリボテ兵器で中距離核戦力全廃条約を結んだ可能性がある。

 中距離弾道ミサイルを配備したと宣言しても実際に使ったわけではない。だから真に完成しているのか未完成なのか判断不可能。

 「核兵器は実戦兵器から抑止兵器になり、今日では交渉兵器になった。従って核抑止力の信憑性よりも曖昧性の方がより安定と抑制に効果がある」(ブレジンスキー論文/トレンズ第1号)

 交渉に使われた中距離弾道ミサイルは曖昧な戦域核であり、完成か未完成か曖昧な存在。だからこそ抑止力になり、中距離核戦力全廃条約の担保になった。

■アジアに中距離弾道ミサイルを配備

 中距離核戦力全廃条約が破棄されると、エスパー米国防長官は8月3日、アジアに地上発射型中距離弾道ミサイルを配備する可能性を示唆した。アジアで配備の可能性が高いのは韓国・日本。次に台湾・フィリピン。

 エスパー米国防長官は、「早ければ数カ月以内の配備が望ましい」と発言している。これは不可解な発言。何故なら今のアメリカ軍には、地上発射型中距離弾道ミサイルは存在しない。存在しない物を数カ月以内に配備することは不可能。

 これは冷戦期と同じブラフの可能性が高い。だが秘密裏に研究開発していたか、もしくは地上発射型中距離弾道ミサイルの保有を隠していた可能生もある。真偽は不明だが、存在しない物を存在するかの様にするからブラフになる。

 真偽不明だから抑止力になり、中距離弾道ミサイルを保有する中国への恫喝になる。アメリカ軍がアジアに中距離弾道ミサイルを配備すれば、中国は新たな脅威に備えることになる。

 中国はこれまで中距離核戦力全廃条約を利用し中距離弾道ミサイルを保有できた。だがアメリカが同じ土俵の上に立てば、今度は中国も先制攻撃と報復攻撃に怯えることになる。中国の優位性が失われたのだ。

■交渉材料

 中国の優位性が失われると、中距離弾道ミサイルは交渉材料に成り得る。中国の接近阻止戦略は、アメリカ軍が中距離弾道ミサイルを保有しないから成立した。だがアメリカ軍も中距離弾道ミサイルを保有すると、中国も先制攻撃と報復攻撃に備えなければならない。これで中国の接近阻止戦略は根底から吹き飛んだ。

 アメリカ軍がアジアに中距離弾道ミサイルを配備すれば、接近阻止戦略に代わる新たな戦略が求められる。それにはアメリカ軍の中距離弾道ミサイルを削減するか、双方が保有しない選択が迫られた。つまり中距離弾道ミサイルは、冷戦期と同じ交渉材料になったことを意味している。

■成立した場合

 中国・ロシア・アメリカの3カ国で、新たな中距離核戦力全廃条約が成立すると、中国の接近阻止戦略は無価値。同時に中国はアメリカ軍の中距離弾道ミサイルに怯えなくて済む。そうなればアメリカ海軍は、中国軍からグアムキラーと空母キラーを奪うことに成功する。

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