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「私は死んだのですか?」3・11被災地の“幽霊現象”

 2011年以来、3月11日が近づくと、毎年メディアのカメラは東北に向かう。今年も例外ではない中で、一風変わって興味が引かれたのはNHKの「ろんぶ~ん」。ほとんどのレポートが残された人たちの立ち直りにフォーカスしているのに対して、逝った人たちの思いに目を向けようとするものです。

 3月7日の番組では、「東日本大震災による爪痕の将来性に対する検討―宮城県石巻市における幽霊現象を事例に―」という東北学院大学4年生(当時)の論文を紹介しました。

 地震と津波で石巻市は死者3500人に及ぶ被害を出した。その町で「亡くなった人の気配を感じる」という体験談がいくつも聞かれるようになった。

 これに関心を持った女子学生が石巻に何度も何度も足を運んで地元の人たちの体験談を聞いて回ったのです。

 概して人々の態度は固かった。亡くなった人の話は簡単にできない。

 「不謹慎だ」
 「そういうの、タブーだろ」
と怒鳴られたことも一再ではなかった。

 女子学生はそれでも粘った。数百人に聞いて回り、最終的には4人の体験談が「具体的」で「はっきり」していると感じた。なぜか、その4人ともがタクシー運転手です。

 ある運転手はこんな体験を話してくれたそうです。

 震災から3カ月ほどたった、ある深夜の出来事だった。私がJR石巻駅(宮城県石巻市)の近くで客を待っていると、もう初夏だというのに、真冬のようなふかふかのコートを着た30代くらいの女性が乗車した。

 目的地を聞くと「南浜まで」と一言。震災の津波で、壊滅的な被害を受けた地区だった。

 私は不審に思って「あそこはもうほとんど更地ですけど構いませんか?」と聞いた。

 すると女性は震える声で答えた。「私は死んだのですか?」

 私が慌てて後部座席を確認すると、そこには誰も座っていなかった。深夜に風変わりな人を乗せ、今は更地になった被害地域に行ってくれと言われる。こんな体験をすれば、どれほど怖かったか想像に難くない。

 ところが不思議なことに、似たような体験をした他の運転手にも共通するのですが、後になってみると、「また乗せたい」という思ひになったというのです。

 調査をした女子学生は多くの人に会いながら、被災地に3種の人がいると感じたと言っています。

 第一は、いまだに下を向いている人。物質的にも精神的にも甚大な被害を受けて、うまく立ち直れない人です。

 第二は、前を向き始めている人。新しい生活を作り直そうと頑張っている人です。

 そして第三は、立ち直ろうとはしているものの、心がついていかない人。これを女子学生は「グレーゾーン」の人たちと呼んでいます。そしてこういうゾーンにいる人たちが主として幽霊体験をしているのではないかというのです。

 タクシー運転手にそのゾーンの人たちが多いのかどうかは分からない。ただ、彼らが一旦はゾッとしながらも、後になると「また乗せたい」と思うようになったという心に変わったのは興味深い。

 彼らは震災前から、多くの町の人を乗せて町の隅から隅まで走り回っていた。ところが、その中の3500人があの日を境に突然いなくなり、町の様子もあまりに変わってしまった。今でもタクシーを走らせる日々、それが辛くもあり、寂しくも感じていたに違いない。

 あの世に行った人たちからすれば、血のつながりこそないとしても、そういう町の道を知り尽くす運転手たちのもとへ行けば懐かしい家まで連れて行ってくれるのではないかと期待する。そういう気持ちになったとしても不思議ではなかろうと想像できます。

 運転手たちがそういう気持ちを感じれば、「また乗せてあげたい」と思う。あの世とこの世で気持ちが通じるのです。

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