■連載一覧
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  • 国防最前線・南西諸島はいま 第1部 与那国島・陸自駐屯地
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  • 普天間基地移設 経緯の検証と提言
  • 「援護法」に隠された沖縄戦の真実
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  • 米中新冷戦 第1部「幻想」から覚めた米国
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  • JAXA宇宙探査計画
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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    アポロ11号が半世紀前に始めた固体惑星物質科学の救世主はやぶさ

    廣井孝弘

     今年2019年の7月は、1969年にアポロ11号が人類初の月着陸の偉業を成し遂げてから50年になる年だ。その翌年1970年から毎年3月にヒューストンで開かれてきた月惑星科学会議(Lunar and Planetary Science Conference, LPSC)も、今年はアポロ月着陸を記念した特別セッションで盛り上がるであろう。それまで、地球外物質としては限られた数の隕石しか知らなかった人類が、月の石を手にし、その元素分析から月が巨大衝突によってできたことを突き止め、宇宙風化の存在も発見した。惑星科学、特に固体惑星物質科学はそこから始まったといえるであろう。

     しかしながら、米国NASAのアポロ計画は、ケネディ大統領の崇高な理想と、ジョンソン大統領の強力な推進、そして何よりアメリカ合衆国とソビエト連邦との間の高度に軍事的な宇宙競争の結果であったと言えるだろう。それもあり、数年後のアポロ17号以降はNASAを始めとするどの国も月に人間を送ったり、ロボットで試料回収をすることはなかった。

     幸いにして南極隕石が大量に発見されはじめたが、地球外の物質をそのまま汚染なく回収するという試みはほぼ皆無であった。日本の小惑星探査機はやぶさが2010年にイトカワの試料を持って帰るまでは。はやぶさの2003年から2010年までの7年間の旅路があまりにも劇的であったために有名になったが、日本人の多くはそのミッションの科学的価値を知らない。強調してもしきれないくらいの大きな衝撃を惑星探査と惑星科学にもたらしたのに。

    490

    アリゾナ大学出版の書籍「Asteroids IV」

     地球圏外試料を取ってこれなかった約40年間の空白の時代は、生命が宿ることのできる固体惑星を研究する分野にとっては、はっきり言って閉塞の時代であった。私の専門分野の小惑星に限っても、小惑星(4)ベスタ以外は物質組成と隕石との対応が厳密には分からず、宇宙風化の存在や、水などの揮発性物質の存在や組成、そして多くの小惑星は形や比重などもはっきり分かっていなかった。アポロが回収した月の物質は地球の起源や太陽系の衝突現象を知るには有用だが、火山活動のゆえに太陽系の始原的物質は失われてしまっている。やはり小惑星・彗星といった小天体の物質を研究することが太陽系の起源と初期進化を知るうえで重要である。

     アリゾナ大学出版から惑星科学分野で有名なシリーズの書籍が出ているが、その中でもAsteroids(小惑星)のシリーズは私が気に入っているものであり、私がNASAジョンソン宇宙センターに滞在した1991~1994年には、Asteroids IIを端から端まで丹念に読破した。数年前に出たAsteroids IVでは、小惑星研究における様々な課題を表にしている章があり、それらの課題のうちで1つだけが解決済みとある。

    Q:豊富な普通コンドライト隕石とS型小惑星のスペクトルが何故合わないのか?
    A:宇宙風化が主原因であり、実験と観測による研究も進んだが、はやぶさのイトカワ試料回収が決定的な証拠となった。

     アポロミッションが月試料を回収した故に多くの決定的な発見があったように、はやぶさがイトカワ試料を回収した故に、40年間の課題が解決されたわけだ。その表にある数多くの他の項目はどれも解決されていないままだ。これが試料回収の威力である。米国でも同様なミッションを提案してきた研究者がいたが、NASAがどんどん予算が減少し、保守的になってきた経緯もあり、どれも危険すぎるとかの可能性判断において落ちてきたのだと思う。はやぶさは宇宙研が世界一・世界初を科学・工学の両面で達成した金字塔だ。はやぶさの成功のおかげで、NASAは重い腰を上げてOSIRIS-RExという自前の小惑星試料回収ミッションをやっと認可して飛ばすことができている。

     半世紀前にアポロ計画で生まれた固体惑星物質科学が40年の暗黒の時代を生きてきたが、はやぶさが救世主のように現れて小惑星試料を回収することで、世界が小天体の試料回収に希望を持ち始めた。はやぶさは事故が原因で昇華していったが、現在、はやぶさ2が再臨主のようにC型小惑星リュウグウに世界最高レベルの位置精度を達成しながら着地・試料採取しようとしている。この究極ともいえるミッションに成功することにより、地球と太陽系の起源と初期進化を解明しようとしている世界の研究者たちに、始原的小惑星の組成と宇宙風化の真実を明らかにし、未来の試料回収ミッションに道筋を与えてもらいたい。

     普通コンドライト 最も豊富な種類の隕石であり、1ミリ程度のコンドリュールという球粒を含むことから名付けられ、鉄が多い順にH、L、LLと分類されている。

     S型・C型小惑星 :小惑星による太陽光の反射率を光の波長に対してグラフにしたカーブ(反射スペクトル)から見て、岩石質(Stony)なものをS型小惑星、炭素(Carbon)を含む隕石のように暗いものをC型小惑星と呼ぶ。

    (2019年1月4日記)

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