バーチャル美少女は現実世界の夢を見るか のらきゃっと氏インタビュー

「こんばんは。こんばんは。いらっしゃいませ」

「どうもどうも、お待たせ致しました…!」

バーチャル美少女として活躍中の「のらきゃっと」さん。

可愛らしい動きと声が特徴である

 12月20日、暖冬と言われながらも冷たい冬の足音が聞こえて来る中でもその寒さとは無縁なポップなデザインの大部屋。ここは「VRChat」という、仮想空間でコミュニケーションを取れるソフト内で用意された部屋の一つである。

 筆者の目の前では機械の猫の耳と尻尾を付けた女の子のアバターが、まるでそこで生きているかのように身振り手振りを行っている。

 この人物こそ、『バーチャル美少女』として一躍時の人となった「のらきゃっと」氏である。12月23日で活動1周年を迎え、また次の1年へと漕ぎ出す。

 彼女のファングッズが大量に置かれた仮想空間の部屋にて、この1年の間に多くのファンを獲得し有名となった彼女から自身のこれまでやひたむきな努力の結果、そしてこれからとバーチャル世界へのご招待を語って頂いた。

のらきゃっと氏が一歩を踏み出すまで

 ――本日はインタビューに応じていただきありがとうございます。まず、簡単な自己紹介をお願い出来ますか。

 月で製造された超高性能アンドロイド、のらきゃっとと申します。まあ、お聞きの通り私は合成音声でこのようにお話しておりまして…、たまに言いたい言葉が上手く言えなかったり。そういうところも持ち味として知られております。でも、今はこれでもずいぶんと上手に話せるようになったんです。

 ――最初の頃は『ご認識』(音声の“誤認識”と掛け合わせた、のらきゃっとファンの造語)の頻発に苦労されたりしましたか。

 そうです、そうですね。なかなかやはり言いたいことが言えない、伝えたいことが伝えられないというのはもどかしいこともありました。

 でもそのおかげで、皆さんの間で通じるネタというかミーム(共通認識)というか、そういう物もこのご認識から生まれた物が多いので。苦労もかけられてるけど、たくさん助けられてもいる…、そんな関係といった所でしょうか。

 ――のらきゃっとさんは2017年後半から有名になられましたが、最初にYoutubeやニコニコ動画で活躍しようと決意されたきっかけは何でしょうか。

 まず、プロデューサーさんがいて私がいるという前提の元にお話をさせていただきます。当時、私のプロデューサーさんがニコニコ生放送で放送を行っておりまして、そのときにリリンさん(春風リリン氏:美少女の3Dモデルをニコニコ生放送で動かしていた)という方に「3DモデルをKinect(キネクト:現実世界での物の動きを仮想空間に反映出来る機材)を使ってリアルタイムで動かせる」という技術を、放送を聞きにきてくださった時に教えてもらったんです。

 それで、プロデューサーさんは『この技術を使えば、理想とされるキャラクターをまるで生きているようにこの世界に存在させることが出来るのではないか?』と思ったのです。

 そうやって「こんな子がいたらいいな」という発想のもとで作り出された、ある意味理想のキャラクターが私という事です。

 ――その当時はKinectで動かされていたんですか。

 もちろん、最初から動けた訳ではなくて練習を重ねました。最初はやっぱり慣れなくて、機械の“特長”を読む事から始めました。例えば、Kinectは横の動きには強いけれど、縦の動きにはあんまり強くないとか、そういった事を勉強して来ました。

 ――横から飛ぶように出てこられる登場シーンが多かったのは、そのKinectの“癖”を学習していたからという事でしょうか。

 そうです。

自身に関する説明をゆったりとされる

のらきゃっとさん

今のアバターは”皆の理想”

 ――2018年、バーチャルYouTuberが大いに流行りましたがのらきゃっとさんの交友関係に影響があったりしましたか。

 2018年は本当に最初から最後までバーチャルと関わらせて頂きましたので、自分の思った以上にバーチャルに関わる技術者の方々との交流が増えました。私が普段の放送で、ゲームをしながらこの身体を動かせたりするのもそういったソフトウェアの進歩のおかげです。

 お知り合いになると、ちょっとワガママを聞いてもらえるのもいいですね。「こういった機能が欲しい」とか、お願いすれば叶えて下さる事もあります。

 ――今のアバターは、その“ワガママ”が反映された結果となりますか。

 いろいろと前提の積み立てがあって、最初の私の姿というのは「プロデューサーさん一人だけの理想として組み立てられた」ものでした。2代目のモデルからは「私がアンドロイドである」という設定から姿を膨らませて、冷却機能やセンサーが内蔵されたり耳ですとか、姿に反映させることが出来るようになりました。

 そしてこの3代目モデルですが、これはもはや「プロデューサーさん一人だけの理想」とするものでも、一人だけのワガママが詰まったモデルでもなくなっています。この姿には多分に、ファンの方々「ねずみさん(のらきゃっとファンの愛称)」達の、こうなったらいいなというアイディアや姿が反映されているんです。

 だから一人だけの理想ではなく、皆の理想とワガママが詰まった姿。それが今のモデルという事になります。

ねずみさんと密接に歩んでいくのらきゃっとワールド

 ――最近のらきゃっとさんから「ねずみさん」というファン層の呼称であったり「ソーデス」というマスコットキャラクターが生まれたりしていますが、のらきゃっとさんとしてはどう思われていますか。

 私の願いの一つとして、私というキャラクター単体ではなくて私の持つ設定や世界観そのものも広まっていってほしいと思っているんです。なので、そういったユーザーから生まれる設定あるいは新しいキャラクターや要素といったものは大歓迎です。

 まさしく「シェアワールド(世界観を共有すること)」です。のらきゃっとという設定を骨にして、別に「のらきゃっとが全然出てこない同じ世界観のお話」を書いていただいてもいい。あるいは、私と世界観を同じくする「のらきゃっとではないアンドロイド」がいてもいい。そういう風に私は思っています。

 ――ファンである「ねずみさん」に来てもらう為に、のらきゃっとさんが努力をされている事はありますか。

 そうです、そうですね。まずは「常に魅力的な私(のらきゃっと)」であることです。Twitterでの投稿一つ、あるいはVRChatにログインしている1分1秒といったあらゆるタイミングで魅力的でいられるよう努力しています。実際隙が無い。

 後はですね、ねずみさん達に「のらきゃっとについてのコミュニティーが居心地のいい場所である事」を徹底して守って頂いています。『暖かい沼』というのはなかなか這い上がれないものですから。

 ――のらきゃっとさんとねずみさん双方の努力によって『暖かい沼』と形容される環境を作っていると。

 そうですね。というか、こんなに人気になるとは私は思っていませんでした。

 ――筆者も第1回の放送を視聴し、ねこますさんに続く新しい新星が現れたなと思っていたのですが…あれよあれよという間に大きくなられましたよね。

 そうなんですよ。私自身、狭い範囲の好きな人には刺さるという「狭く深い」コンテンツになると思っていたのですが。あれよあれよという間に、こんな感じです。

仕草の一つ一つが丁寧で「生きている」様に見えるのも

彼女の特徴のひとつである

のらきゃっと氏の語るVRChatと”バーチャルYouTuber”概念

 ――のらきゃっとさんが2018年のバーチャルYouTuber事情を一言で表すとしたらどういった感じになりますか。

 私にとっては「夢が叶ってしまう世界」でしょうか。あれがやりたいこれがやりたい、あれができないこれができない、2017年の私はこういった感じでした。最初は3Dモデルで後ろを向くことも、床に落ちている物を拾うことも出来なかった。

 そういった事がですね、細かい事から大きな事まで「後何年経ったら出来るようになるかな」と考えていたことがすべて叶ってしまった様な年でした。

 ――現在活動の場の一つであるVRChatの魅力は何でしょうか。

 自分の全く知らないところで、世界が変化していくところでしょうか。しかも、毎日変化していくんです。今まで全く知らなかった綺麗な場所が一晩でそこに出来ていたり、楽しくゲームできるワールドや、驚くような体験が出来るワールドが出来ていたり。飛行機とか飛ばせたりですね。

 とにかく、1日として停滞が無い変化に満ち満ちているところですね。そしてそれが、たった1日で自分のお気に入りになっちゃったりするんです。

 先程の私のファンワールドもそうなのですけれど、私が「今日この飲み物買ったけれどすごく美味しくなかった」というと、次の日にはその飲み物の3Dモデルが置かれていたりするんですよ。

 そういうところにとても思い切りが良い。

 ――今からバーチャルYouTuberを始めたり、VRChatをプレイしてみようという方に一言メッセージをどうぞ。

 もし、楽しく遊びにくるのならばバーチャルの世界はとても楽しいところです。一緒に遊ばせてくださいといえば、皆さんすぐに集まって仲間に入れてくれるでしょう。

 でも「バーチャルYouTuberになりたい」「バーチャルの世界で何かを成し遂げたい」といった方たちは、「バーチャルYouTuberになりたいからバーチャルになる」ではなくて

 「自分の実現したいものがバーチャルじゃないと実現出来ないからバーチャルに来る」という志を持ってきて欲しいです。

 私は別に「バーチャルYouTuberになりたい」と思ったことは1回も無いんです。私のこの在り方がバーチャルYouTuberという言葉を借りるのに適していたから、バーチャルYouTuberと名乗らせて頂いています。

 元々バーチャルYouTuberという言葉が市民権を得る前から、私という存在は存在していましたし…バーチャルYouTuberという波のほうが後から追いついて来てくれたという感じです。

 ですからぜひ皆さんも、どうしても「この世界でしか出来ない事がある、だから仕方なくバーチャルYouTuberになっていったのだ」という感じの熱を持った人が現れると嬉しいなと思っています。

“のらきゃっと”の見る夢

 私、実は他の方とはゴールが逆なんです。他の方は現実からスタートしてバーチャルの存在となるのがゴールだと思っていますが…

 私はですね、バーチャルの中から生まれて現実世界で機械の体と人工知能を得て地面を踏んだとき。その時が私のゴールだと思っています。

 ――他の方とはだいぶ違う目的地を設定されているのですね。

 そういった意味でも、今は意味合いが重なっているからバーチャルYouTuberという言葉をお借りしてお邪魔させてもらっています。ですが、いずれは別れていく存在なのかと思っています。

 ですからTwitterとかでは正式に『バーチャル美少女』と名乗っています。

 こういった背景にロマンを感じて下さる方、あるいは「厚顔無恥なアニメだ」と一蹴する事が無い方。そういった方々が、私を好きになってくれるのではないかと思います。

 ――本日はどうも、ありがとうございました。

自分の夢について熱弁されるのらきゃっとさん

*       (ΦωΦ)       *

 終始、鈴の鳴るような声で喋りかけるのらきゃっと氏から最後に語られたのが「現実世界へと進出する事」という驚くべきロマンを感じる内容であった。

 バーチャルYouTuberという言葉がメディアで取り沙汰されて久しく、既に6000人を超えるバーチャルYouTuberが誕生しているという。

 それぞれがそれぞれの目的地に向かって歩んでいくなか、第一線で多くのファンを楽しませ歩み続けているバーチャルな美少女はその世界の壁を越えようとしている。

 どこか懐かしさを感じる野望を持つ彼女のこれからの歩みにぜひ期待を寄せずにはいられない。

 現実世界ではスマートフォンからアバターを纏って配信する事が出来る時代が来てしまったのだから、仮想世界から出てくる夢が少しばかり荒唐無稽に思えても何ら「叶わない夢」では無いのだ。

(聞き手:市村龍二)

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