«
»

習金〝電撃″首脳会談とその背景

金委員長を震えあがらせたトランプ人事

 3月末、世界が驚く出来事が報じられた。
 その動向が20日間ほど分からなかった北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が、中国の習近平国家主席の招きに応じて北京を訪問し、中朝首脳会談を行ったのだ。専用列車で鴨緑江を超える金正恩一行の動きなどがリアルタイムに報じられなかったのは、ヒットマンによる暗殺を恐れてのことか。

 金委員長はぎこちない笑顔で習主席と握手し、屈辱的な猿芝居を打った。この数カ月、「1000年の敵」呼ばわりしていた隣国について、「初の外国訪問が中国の首都となったのは当然であり、(訪中は)朝中親善を引き継ぐ私の崇高な義務だ」と語った。

 〝宝剣″と例えてきた核についても、「金日成主席と、金正日総書記の遺訓に照らし、『朝鮮半島の非核化』の実現に力を尽くす」と言ってのけた。メモを取る、律儀な姿勢も見せた。

 もちろん、北朝鮮メディアはこのような話や姿は報じない。
 金委員長が北京行きを決断した背景は、習政権に「経済制裁の解除」を懇願したことが一つ。加えて、ドナルド・トランプ米大統領が、4月27日の南北首脳会談、5月の米朝首脳会談を見据えて決めた、新たな人事と無関係ではないはずだ。

 トランプ大統領は、金王朝に近い江沢民派の楊潔篪政治局員と密接だった、穏健派のレックス・ティラーソン国務長官を切った。これにより「対北対話派」の米中ラインが消滅した。後任長官は「対北強硬派」のマイク・ポンペオCIA(中央情報局)長官が指名された。

 ハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も解任され、後任にはネオコン(新保守主義派)の代表格、ジョン・ボルトン元国連大使を充てる人事が発表された。ボルトン氏は、ブッシュ(子)政権で国務次官や国連大使を務めた。2003年に始まったイラク戦争において、サダム=フセイン政権を倒壊させた中心人物の一人である。

 また、ハリー・トルーマン大統領による日本への原爆投下について、「正しい判断」との見解を示し、2016年のバラク・オバマ大統領による広島訪問を、「恥ずべき謝罪ツアー」と批判した人物なのだ。金王朝が震え上がってもおかしくはない。
 
鉱山資源の利権奪取と掌握

 さて、国家主席に就任して5年、金王朝との関係は史上最悪となっていたが、その習主席にとっても、金王朝と〝表層的″であれ、早々に関係改善の一歩に踏み出さなければならない理由があった。

 まず、隣国を「捨てる」選択肢など中国共産党にはないからだ。習主席が超えたい存在=毛沢東主席は、かつて朝鮮半島を「唇亡歯寒(唇亡びて歯寒し)」の血盟関係に例えた。上述した南北首脳会談、米朝首脳会談も4月と5月に予定されている。中国が朝鮮半島に対して、主要プレーヤーどころか影響力を失ってはならないとの判断があったためだ。

 中国が潜在的に、北朝鮮の「核・ミサイル」や「生物化学兵器」の脅威にさらされている現状もある。習一派が掌握できておらず、金王朝とウィンウィンの関係を続けてきた旧瀋陽軍区(現北部戦区)部隊によるクーデターの恐れと、旧満洲国地域が無政府状態に陥る危険性の回避など、放置できないリスクが絡み合っていたはずだ。

 これら重大事を先延ばしにすれば、習皇帝の終身国家主席の地位すら危ぶまれることになる。さらに、習主席としては、北朝鮮の鉱山資源の利権奪取とその掌握を目指していたはずだ。「推定6兆ドルから10兆ドル」。これは欧米諸国の専門家らによる、北朝鮮の埋蔵鉱物資源の〝推定価値″のことである。山岳地帯の地下には、金、鉄、マグネサイト、タングステン、無煙炭、銅、石灰石など、ハイテク製品の製造に必要なレアアース(希土類)を含む鉱物資源が約200種類、眠っているとされる。金正日総書記の時代には、核開発への野望を満たすためにも〝潜在的な宝の山″を切り札に、世界から経済支援を得た〝実績″がある。

 原子力燃料資源に食指を動かす米英中露、そしてフランスやドイツなどは、2004年頃から北朝鮮へ直接、あるいは中国経由で鉱山開発権を得るため大量に資金を流し込んでいった。吉林省を本拠地とする企業3社も、国境地域の茂山(ムサン)鉱山の50年間の開発権を2005年に取得した。

 資源利権の争奪戦の中、「北朝鮮の一部地域で独占的に鉱物資源の開発をしている中国は、貴重な鉱物の閉鎖された市場を維持することに興味を持っている」との揶揄も、英字メディアに踊った。
 
 近年、北朝鮮による対中貿易量の55%前後が鉱物貿易とされるが、闇貿易や迂回貿易などを含めれば、ケタ違いの収益を確保してきたはずだ。ただ、その利益構造を長年、牛耳ってきたのは江沢民派であり、旧瀋陽軍区(現北部戦区)と表裏一体の東北三省(遼寧省・吉林省・黒竜江省)にある軍産企業だったと考えられる。

 すなわち、「中朝ビジネス」とはいえ〝習皇帝″には旨味がなかった。その状況を抜本改革、すなわち北朝鮮利権を江沢民派から奪取するためにも、この5年余り、江沢民派大物幹部を次々と粛清し、中朝錬金ルートを切断し、国連安全保障理事会決議にも歩調を合わせ、関連企業を閉鎖に追い込むなど〝兵糧攻め″にしてきたのだろう。

 すなわち3月、金委員長が電撃的に北京を訪問し、習主席との非公式の首脳会談に臨むことになったが、この茂山鉱山を貢物に関係改善の一歩を踏み出したのではないかと推測する。

10

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。

コメント

コメントの書き込み・表示するにはログインが必要です(承認制)。