ワシントン・タイムズ・ジャパン

米中露の新冷戦時代~〝同床異夢〟の勝者は誰なのか?

南北統一に前のめり(?)な文在寅大統領

 平昌冬季五輪の序盤、氷上での熱戦と共に〝熱視線〟を浴びたのは北朝鮮高位級代表団、なかでも金正恩委員長の妹、金与正(キム・ヨジョン)・党副部長だった。「白頭血統」の一員として、初めて韓国を訪問した与正氏は、父親の金正日総書記が後継者候補として悩んだほど有能な女性と言われる。

 正恩氏と与正氏は2000年末のほぼ同時期、数年間のスイス留学から平壌に帰国している。とすると、10代前半から金正日総書記が他界するまでの10年余り、兄妹は切磋琢磨しながら帝王学を学んできたのか。少し顎をしゃくり上げ、背筋を伸ばした姿勢で、韓国の文在寅大統領にも微笑みを絶やさない与正氏のその姿は、地味な服装と相まって30前半とは思えない貫禄が漂っていた。

 一方の文大統領は、平昌(五輪)マジックではなく平壌マジックに〝ご満悦〟だったはずだ。米国による制裁対象の与正氏や国連による制裁対象の崔輝(チェ・フィ)国家体育指導委員長らが、米韓の制裁対象となっている高麗航空に乗って38度線を越えてきたのだ。統一省の予算から北朝鮮代表団の宿泊費や食費など計28億6000万ウォン(264万ドル)を支払うと報じられたが、核ミサイルを持つ同胞との〝融和=朝鮮半島の緊張緩和〟の演出が、同盟関係より、韓国ひいては文大統領の立場を持ち上げる〝公器〟になり得るとぬか喜びしてもおかしくはない。

 「8月15日の光復節に、文大統領の訪朝が要請されたのでは? 朝鮮民族が日本の植民地から解放された日だと世界に喧伝するチャンスだ」などと記した海外メディアもある。

 そして、五輪閉会式でも〝新時代の幕開け〟を暗示する映像が話題となった。文大統領と並ぶ米トランプ大統領の長女イヴァンカ・トランプ大統領補佐官の後方に座り、再三、映像で一緒に映り込んでいたのが、北朝鮮代表団の金英哲(キム・ヨンチョル)党中央委員会副委員長だった。

 金氏は文大統領に「アメリカと対話する十分な用意がある」と応じたとされ、ホワイトハウスはこの北朝鮮側の表明を受け、「北朝鮮が非核化への第一歩を示しているのか見極める」との声明を発表。韓国を含めた国際社会は、「北朝鮮との対話の結果は、非核化でなければならないとの認識で一致している」と強調している。南北統一に前のめり(?)な文大統領が、北朝鮮の非核化を望んでいるかは疑問である。
それにしても、米朝の駆け引きはまだ当分続くのだろうか?

習主席のジレンマとプーチン大統領を激怒させたこと

 このように、平昌五輪は開幕から閉幕まで、首領の妹、米大統領の娘という敵対する〝最高峰の女子力〟で盛り上がったが、存在感が極めて薄かったのが中国であり習近平国家主席だったのではないか。

 その沈黙を破るようなニュースが閉幕式の同日、2月25日に中国国営新華社通信によって報じられた。中国共産党中央委員会が、国家主席の任期を連続2期10年までとする条文を憲法から削除する改憲案を全国人民代表大会(全人代=国会)に提出したという。改憲案は、習主席への忠誠を誓うか否かを表明する、いわば「踏み絵」となる。反対すれば粛清の対象になりかねないため、出世への野心を抱く次世代には面従腹背しか残された道がない。

 つまり、来月5日に開幕する全人代で改憲案は可決されるはずだ。2期目をスタートしたばかり、64歳の習主席だが、国家主席として2023年以降の3期目どころか、その先まで視野に入れていると推測する。

 人民解放軍に対し、「死を恐れるな!」と激しい言葉で訓示する習主席が目指すのは、「革命は銃口から生まれる」という毛沢東主席の言葉を上書きした「習軍独裁政権」「終身独裁体制」なのだ。

 ただ、北京から「この1カ月ほど、習主席は震え上がっていた」という情報が伝え漏れていた。トランプ政権が1月に発表した、「国家防衛戦略」(National Defense Strategy)の内容に驚愕したというのだ。同戦略は、習主席の中国を、米国の優位を覆そうとする「ライバル強国」の第一に掲げ、中国やロシアとの「長期的かつ戦略的な競争」が、テロとの戦いに代わる米国の最重要懸案であると強調していた。すなわち、「米中露の新冷戦時代」の幕開けを意味した。

 こうしたなか、習政権の足元はグラついていた。敵対する江沢民元国家主席派の粛清に次ぐ粛清や、軍幹部の強引な入れ替えなどの影響で、「この5年あまりで9回目」とされる暗殺未遂も報じられた。

 第1次習政権で試みた、「朝鮮半島を、南(韓国)から属国化していく戦略」も見事に失敗し、米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)は配備された。かつては「兄弟国」だった北朝鮮との関係も史上最悪で、「1000年の敵」呼ばわりされるまで悪化した。
頼みの綱だったロシアとの関係も、中国政府が1月下旬、「(中国主導の広域経済圏構想)『一帯一路』構想に北極海航路を入れる」と発表したことで、プーチン大統領を激怒させてしまった。

 内憂外患の習主席だが、朝鮮半島情勢について、表向きは「米朝対話」を主張しながら、本音は違う可能性が高い。「金王朝の崩壊」を狙っているはずの習主席が、それを察知する金王朝の核ミサイルや生物化学兵器の脅威にさらされているとすれば、トランプ政権が軍事オプションに踏み切ることを、内心で期待していてもおかしくはない。
ただ、習主席のジレンマは、その先にある。

 中国は長さ約1400キロという中朝国境に、数千人から数万人とされる人民解放軍を配備した。だが、いざ戦闘状態に突入すれば、朝鮮族の多い北部戦区(旧瀋陽軍区)の部隊が、どこに銃口を向けるか分からない。
習主席は、その際のロシアの動向も懸念している。

 4年前のソチ冬季五輪直後、クリミア半島を電撃的に併合したプーチン大統領は「ハイブリッド戦争」(=軍事・非軍事の掛け合わせ)を得意とし、正恩委員長とは良好な関係を築いている。

 朝鮮有事に乗じて、大量の北朝鮮難民を中国東北三省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)に送り込み、〝緩衝ベルト〟にして極東シベリアとつなぐ、世界地図の塗り替えを画策しているフシがあるのだ。すなわち、習主席が掌握しきれていない旧満洲の地が無政府状態となり、国家分裂の危機に陥りかねない。

 プーチン大統領は、埠頭1つを租借した北朝鮮の羅津(ラジン)港だけでなく、韓国の釜山港をも租借地にしたいと考え、「北朝鮮主導の朝鮮統一」にも力を貸すはずだ。

 これらが現実となれば、日本の安全保障にも甚大な影響が出かねない。〝同床異夢〟の米中露の勝者は誰なのか?

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