ワシントン・タイムズ・ジャパン

世界的インフレ懸念と成長減速

鈴木政経フォーラム代表、経済学博士 鈴木 淑夫

金融緩和の転換図る各国
政策変えぬ日本、異常な円安に

鈴木 淑夫

鈴木政経フォーラム代表、経済学博士
鈴木 淑夫

 世界の新型コロナウイルスの新規感染者が減少に転じ、感染力の強いデルタ株の猛威が峠を越した夏の終わり頃には、コロナ禍で手控えられてきた消費需要の反動的増加によって、世界経済は秋以降順調に回復すると思われていた。しかし秋も深まった現在、このシナリオには、やや狂いが生じている。

 先月、国際通貨基金(IMF)が公表した世界経済見通しによれば、本年の経済成長率の予測は、前回7月の予測に比べて、米国が6・4%から6・0%へ、日本が3・3%から2・4%へ、中国が8・1%(4月予測では8・4%)から8・0%へ、いずれも下方修正された。この間、先進国のコロナワクチンの接種は進んでいるし、3回目のブースター接種も準備されている。この成長減速は、コロナ禍の直接の影響ではない。

広範な供給不足が影響

 これは世界的に物価上昇率が高まり始め、長く続いた超金融緩和の転換を始める国が増えてきたためである。米国では今年の第1四半期まで、消費者物価の上昇率は年率3~4%に落ち着いていたが、その後徐々に加速し、前月同月比は10月まで6カ月連続して5~6%台の上昇となった。当初は回復期にある一時的な加速と見ていた連邦準備制度理事会(FRB)も、今月2日の連邦公開市場委員会(FOMC)で来年からとしていた量的緩和の縮小(テイパリング)を直ちに開始し、来年中頃に終えるとし、再来年からと見られていた利上げを来年には始めると見られる。カナダ銀行も、先月同様の決定をした。

 欧州でも消費者物価上昇率が前年比3%を超える国が増えている。既にノルウェーやポーランドの中央銀行は9月と10月に利上げをしたが、途上国、新興国を含めると、今年に入って世界の32カ国が利上げをしたという調査がある。

 長く続いた世界的金融緩和の転換を促しているこのインフレの気配は、コロナ禍からの回復に伴う世界的な需要回復によるよりも、半導体等の部品が世界的に不足し、グローバル・サプライチェーンの寸断で自動車など組立型装置産業の世界的減産が生じ、また天然ガスや原油の世界的供給不足が起きるなど、世界経済で広範な供給不足が生じたためである。

 かつて世界経済は、第1次(1973年)第2次(79年)石油ショックで原油の供給が不足し、不況とインフレの同時発生、いわゆるスタグフレーションに見舞われた。インフレ抑制のために金融を引き締めれば不況は深まり、不況対策として金融を緩和すればインフレが高進するというジレンマケースである。この時、金融引き締めでインフレを抑制してから景気立て直しに向かった日本、米国、西独が最も早く立ち直り、インフレ抑制と不況克服の二兎(にと)を追ったその他の国はスタグフレーションが長引いた。この時の経験もあって、今回はまず金融緩和の転換を図る国が増えている。

 日本でも半導体等部品や天然ガスの供給不足と石油製品値上がりの影響は強く出ており、本年2月まで前年比マイナスであった国内企業物価指数がプラスに転じ、上昇幅は急激に拡大して6~8月は5%台、9月はさらに6・4%、10月はついに8・0%となった。しかし、その消費者物価への波及は、企業収益の圧縮に吸収されて遅く、9月になってようやく前年比プラスに転じ、0・2%となった程度である。このため先月28日の日本銀行金融政策決定会合でも、政策転換の話は出ていない。

「悪い円安」の損失は大

 このような世界各国と日本の金融政策の違いは、内外金利差の発生とその拡大予想から、異常な円安を生み出している。日本円は対米ドル相場で一時114円台となったが、日本のインフレ率が諸外国より低いことを考慮した実質円相場では、さらに異常な円安水準である。円安は輸出に有利とみられがちだが、海外に製品工場を持つ企業には何のメリットもなく、また海外の素原材料に依存し、あるいは海外に部品工場を持つ企業には損失だ。1990年代後半の「悪い円安」と同じで、海外の商品や企業を高く買い、日本の商品や企業を安売りしているわけで、この損失は大きい。

(すずき・よしお)

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